刑事事件における金銭的被害者支援―損害賠償命令制度について

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加害者から暴行を受け怪我をし、もしくは強制わいせつを受けて精神的苦痛を感じた場合、被害者としては損害賠償請求をすると思います。その場合、加害者に対する刑事裁判の結果を損害賠償請求訴訟に利用できるのであれば、より損害賠償請求がしやすくなり、被害者救済に資することになるでしょう。
このような金銭的被害者支援を実現するべく、日本においては損害賠償命令制度というものがあります。今回は、この損害賠償命令制度についてお話したいと思います。

1 損害賠償命令制度とは

損害賠償命令制度とは、被告人(加害者)の刑事事件を担当している裁判所が、被害者の申立てを受けて、損害賠償の審理を行い、被告人(加害者)に対して損害賠償の支払いを命じることのできる制度で、平成20年12月1日に開始されました。
当該制度は、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」(以下、犯罪被害者等保護法と略します。)によって定められた法律上の制度であり、同法には適用対象や手続きについて種々の規定が置かれています。
本来であれば、被害者としては、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟という民事訴訟を提起して、勝訴判決を受けなければなりませんが、当該制度によってわざわざ別に民事訴訟を提起する必要がなくなりました。また、刑事事件を担当している裁判所が審理するので、その刑事裁判における審理・判断を直接的に考慮してもらうことができ、事件の迅速な解決や訴訟活動の負担軽減という点で犯罪被害者にメリットがあります。さらにいえば、民事訴訟の場合は訴訟額が大きいと印紙代が数万・数十万となることもありますが、当該制度においては一律2000円であるため、コストの点からいっても便利な制度です。

2 損害賠償命令制度の適用対象

対象犯罪は犯罪被害者等保護法第23条1項に規定されています。具体的には、次のような犯罪が対象となっています。

  1. 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪
  2. 強制わいせつ・強姦・準強制わいせつ及び準強姦(刑法176条ないし第178条)
  3. 逮捕及び監禁(刑法第220条)
  4. 未成年者略取及び誘拐・営利目的等略取及び誘拐・身の代金目的略取等・所在国外移送目的略取及び誘拐・人身売買・被略取者等所在国外移送・被略取者引渡し等(刑法第224条ないし第227条)
  5. ②から④の犯罪行為を含む他の犯罪
  6. ①から⑤の中で未遂罪はあるものはその未遂罪

※ ①は、具体的には、殺人罪(刑法第199条)、傷害罪(刑法第204条)、傷害致死罪(刑法第205条)などです。
※ ⑤は、具体的には、強盗強姦(強盗を含む犯罪)や強制わいせつ致死傷(強制わいせつを含む犯罪)などです。

 その上で、当該制度を利用することのできる者は、上記対象犯罪の被害者か、当該被害者の一般承継人(相続人)です。

3 損害賠償命令制度を利用する場合の流れ

審理の開始

まず、起訴後から弁論手続終了時までの間に、被害者が当該刑事事件を担当している裁判所に対して損害賠償命令の申立てをします。その上で、刑事裁判において被告人に有罪判決が出た場合は、損害賠償命令の審理が開始されます。

審理から決定まで

損害賠償命令の審理は、刑事裁判を担当とした裁判所が刑事裁判における刑事訴訟記録をそのまま使って行います。
当該審理は原則として4回までとされており、最終的に審理の結果(「決定」)が出ます。この決定は、確定すると民事裁判における確定判決と同一の効力が生じますので(犯罪被害者等保護法第33条第5項)、あとで覆すことはできなくなります。
※ なお、決定に対し異議申立てがなされた場合や4回以内の審理で終結しないとの見込みがあるときなどは、通常の民事訴訟に移行します。もっとも、裁判記録はそのまま引き継がれますので、損害賠償命令制度が無駄になるようなことにはなりません。

4 損害賠償命令に基づく支払いがなされない場合の対応

損害賠償命令が出されても加害者が損害賠償を支払ってくれない場合、強制執行をして加害者の財産から満足を受けることになります。強制執行をするためには、「債務名義」(民事執行法第22条各号)が必要となりますが、損害賠償命令制度においては、状況に応じて2パターンの債務名義が存在します。

損害賠償命令が確定している場合

この場合、上記で述べた通り、民事裁判における確定判決と同一の効力が生じていますので、債務名義の種類のうち「確定判決と同一の効力を有するもの」(民事執行法第22条第7号)にあたり、これに基づいて強制執行をすることができます。

損害賠償命令に対して適法な異議がなされた場合

まず前提として、裁判所は、損害賠償命令を出す際、仮執行宣言を付することができます(犯罪被害者等保護法第32条2項)。そして、適法な異議が出されると、前述しました通り通常の民事訴訟に移行することにはなりますが、仮執行宣言が付いている損害賠償命令であれば、その効力は存続するのです(同法第33条第4項参照)。
その上で、この仮執行宣言付きの損害賠償命令は、債務名義の種類のうち「仮執行の宣言を付した損害賠償命令」(民事執行法第22条第3号の2)にあたりますので、これに基づいて強制執行をすることができるのです。


いかがだったでしょうか。刑事訴訟と民事訴訟は、本来的には別々の手続きによってなされるものです。それゆえ、被害者側としては、刑事訴訟で加害者が有罪となっても、別の手続きとして民事訴訟を提起しなければ、損害賠償の請求ができないという不便さがありました。損害賠償命令制度は、このような本来別々である手続きを連結させることで、犯罪被害者の救済を図っており、画期的なものといえるでしょう。