不倫をした夫に離婚を求められたら

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前回の「不倫の慰謝料3(不倫相手の妻に訴えられたら)」では、不倫相手の妻に慰謝料を請求された女性が、妻の請求に対しどのように対応すべきかについて考えてみました。男性に妻があることを知りながら、女性がその男性と不倫関係に入ってしまった場合でも、女性が常に男性の妻に慰謝料を支払わなければならないわけではないことをご説明したものです。
しかし、夫の不倫により妻は妻としての権利を侵害されたわけですから、妻の方としても黙って泣き寝入りする必要はありません。とりわけ、妻にさしたる落ち度がないにもかかわらず、夫が妻を捨ててよその女のもとに走り、妻に一方的に離婚を求めるような場合であれば尚更です。妻が専業主婦として家事に専念しているような場合、離婚により妻は生計の手段を失ってしまいますから、いっぺんに困窮してしまいます。
そこで、今回は立場を変えて、不倫に走った夫から理不尽にも離婚を求められた妻である「あなた」の立場から、「あなた」がどう行動すべきか考えてみたいと思います。

1 「あなた」が離婚を望まない場合

(1).妻としての法的地位

先ず、「あなた」が夫との離婚を望まない場合、「あなた」が離婚に応じる必要はありません。有責配偶者、つまり婚姻関係を破綻させた当の配偶者からの離婚は、一定程度長期の別居状態が既にあり、かつ、夫婦の間に未成熟子がいないという場合でなければ認められず、この場合であっても、離婚によって相手方配偶者が精神的、社会的、経済的に苛酷な状態に置かれたり、有責配偶者が相手方配偶者に対する婚姻生活上の協力や扶養を怠っていたりするような事情がある場合には認められません。夫の不倫で結婚生活が破綻した場合、夫が一方的に離婚を求めても、それだけで離婚が認められることはありません。婚姻制度において妻の地位は強力に保護されていますから、「あなた」がその有利な地位を放棄する必要はありませんし、放棄すべきでもありません。「あなた」としては、妻としての地位にあることを前提に、「あなた」にとって何が最も良い選択であるのかを冷静に判断する必要があります。

最終的に離婚が避けられないとしても、「あなた」が離婚に応じない強い姿勢を見せることで、離婚における条件闘争を有利なものにすることができますし、「あなた」が夫との関係を修復したいと望むのであれば、夫婦関係修復のための時間を確保することができます。また、家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立てることもできます。夫の不倫が一時の熱情に駆られたものであれば、第三者の意見に触れることや、一度、別居して、少し時間をおいてみることで、夫も冷静さを取戻し、結婚生活を修復できる可能性は十分あります。長い目で見れば、婚姻関係を修復できるのが最もよい解決と言えますから、「あなた」自身が一時的な感情で離婚に応じることは避けるべきです。

(2).婚姻費用分担請求

仮に、「あなた」が離婚に応じず、婚姻関係が継続したとしても、夫が「あなた」との結婚生活に価値を認めなくなってしまえば、収入を一人占めして「あなた」にお金を渡さなくなってしまうことも考えられます。そのような場合、婚姻費用分担の調停を家庭裁判所に申し立て、夫から生活費を取り立てることができます。民法上、夫婦は互いに扶助しなければならず(夫婦の扶助義務)婚姻から生じる費用を分担しなければならない(婚姻費用分担義務)とされているからで、このことは、婚姻関係が破綻し、夫が家を出て別居している場合でも変わりません。

婚姻費用とは、夫婦が通常の社会生活を維持するのに必要な費用をいい、衣食住、医療、子の養育・教育にかかる費用はもちろん、通常の社会的交際や娯楽に必要な費用も含みます。夫婦の扶助義務は生活保持義務とも言われ、単に最低限度の生活を相手に保障するだけではなく、夫婦の双方が同一程度の生活を維持するに足りるものでなければならないとされています。したがって、夫は自己の収入に見合う金額を「あなた」に給付しなければなりません。

住宅ローンを支払っている場合、家出した夫が住宅ローンの支払いを停止し、抵当権が実行されて、残された妻が住まいを失うという事態がありますから注意して下さい。住まいを失わないためにも、婚姻費用の分担請求は重要です。
婚姻費用分担請求は、家事事件手続法上の「婚姻等の関する審判事件」ですから、家庭裁判所に審判を申し立てることになります。

(3).慰謝料請求

不倫をされた側の配偶者は、不倫相手に対して慰謝料を請求することができます。前回の「不倫の慰謝料3(不倫相手の妻に訴えられたら)」では、夫の不倫相手に対する妻の慰謝料請求が常に認められるわけではないことをご説明しましたが、ここでは、「あなた」は既に夫から離婚を求められていますから、「婚姻生活の平和」(前掲「不倫の慰謝料3(不倫相手の妻に訴えられたら)」参照)は既に害されていることになり、離婚に至っていなくとも、通常、慰謝料請求は認められます。慰謝料の相場は、数十万円から300万円程度です。

では、夫に対して慰謝料を請求することは可能でしょうか。不倫が原因で夫婦が離婚をする場合には、離婚に伴う財産分与の中で慰謝料を請求することができますが、婚姻関係を継続する限り夫婦の財布は一緒ですから、婚姻関係を継続したまま妻が夫に損害賠償を請求するのは奇妙な感じがします。
とはいえ、夫の不倫相手の女性に過失がない場合、女性に対する慰謝料請求は認められませんし、認められる場合でも、相手の女性に資力がない場合、慰謝料を払ってもらえませんから、慰謝料を請求する相手は夫しかいません。
不倫の慰謝料は、債権の効力を強めるために、夫と不倫相手のそれぞれが全額を負担する連帯債務とされていますから、夫婦間で慰謝料請求することに理論的な問題はありませんし、夫婦が別居をしている場合には、事実上、夫婦の財布も一緒とは言えなくなっていますから、妻が夫に慰謝料請求をすることにはそれなりに意味もあります。

もっとも、「あなた」が夫との離婚を望まない場合、夫を被告として訴訟を提起すれば、普通は、夫との関係の修復はそれまでよりも遠のいてしまうことになります。「あなた」に婚姻を継続したいと願う気持ちがあるのであれば、慎重に考える必要があります。

2 離婚に応じる場合

(1).財産分与請求

では、次に、婚姻生活の修復がもはや不可能で、「あなた」自身、婚姻生活に見切りをつけた場合について考えてみましょう。この場合、離婚の過程であなたの利益を最大にすることが目標になります。具体的には、「あなた」が離婚に応じる場合、夫に対し財産分与請求をすることができますから、「あなた」としては、財産分与として、夫からどれだけ多くの財産を、しかも確実に受け取ることができるかを考えることになります。

財産分与の内容は、①夫婦の財産関係の清算②離婚後、生活に困窮する配偶者の扶養、及び③慰謝料であり、これに加え、④未払いの婚姻費用の清算を行うこともできます(本ウェブサイト「離婚を巡る法律関係4(離婚に伴う金銭給付)」参照)。
先ず、①の夫婦の財産の清算については、夫婦の共有財産、つまり、夫婦が婚姻中に取得した財産の1/2が離婚に伴い清算されますが、共有財産が夫の単独名義で維持されていることが少なくありませんし、夫が離婚に備えて財産を隠したり、処分したりすることも考えられますから、日頃から夫の財産についてよく把握しておくことが必要です。夫から離婚を求められたら、すぐに夫の財産関係の書類等を確保することをお勧めします。具体的には、不動産の権利証や登記関係書類、夫名義の銀行口座やゴルフクラブの会員権はもちろん、給与明細や生命保険、株式や投資信託などの取引記録などです。

(2).財産の仮差押

財産分与を確保するために、夫が勝手に不動産や預貯金などの財産を隠匿したり処分したりできないようにする手段をとることができる場合があります。仮差押という手続を家庭裁判所に申し立てる方法で、認められた場合、銀行預金は払い戻しをすることができなくなり、不動産は登記を変更することができなくなります。

もっとも、仮差押には保証金が必要となりますし、離婚紛争の状態や当事者関係次第では利用できない場合もありますので、弁護士の協力が必要です。早めに弁護士に相談することをお勧めします。

(3).不倫の証拠の確保

③の慰謝料も財産分与の一部です。慰謝料の金額は先に述べたとおりですが、離婚給付としての慰謝料を確保するために重要なのは、不倫の証拠を確保することです。裁判所は、証拠なしには事実を認定してくれないからです。
証拠の確保の手段としては、興信所や探偵事務所に不倫調査を依頼できれば、裁判で有利となる証拠能力の高い証拠を確保することができる可能性がありますが、調査には、一般的に数十万から100万円程度の費用がかかるため、「あなた」が既に離婚を決意し、相当の財産分与や慰謝料を得ることのできる見通しがある場合でないと、簡単に利用することができないかも知れません。

しかし、不倫には必ず何らかのサインがありますから、日頃から夫の行動に注意を払っておくべきです。中でも、即時性と秘匿性の高い携帯メールは不倫の最強ツールであるだけに、ほとんどの離婚訴訟で重要な証拠として採用されています。不倫の兆候があれば、度を超えないものである限り、夫のプライバシーに対する軽微な侵害は正当化されますから、不倫の証拠となるようなメールがあれば何らかの形で記録しておくことをお勧めします。

(4).養育費の確保

財産分与とは性質が異なりますが、未成熟子がいる場合、子どもの養育に必要な資金を確保することが最重要課題になります。養育費の確保については、本ウェブサイト「離婚に伴う養育費について」を参照してみて下さい。離婚を優先して、養育費の取り決めや履行の確保を疎かにしてはいけません。養育費の確保にも技術が必要ですから、ここでも早めに弁護士など、専門家の助言を得るのがよいと思います。

3 まとめ

夫に不倫をされて弁護士のもとに相談に来る方には、ショックや不安で疲れきっている方が少なくありません。「あなた」としては、「あなた」にとって何が最も良い選択であるのかを慎重に判断する必要がありますが、夫の不倫と言う危機に瀕して、往々にして「あなた」自身が冷静さを失い、自分で思っている以上に合理的な行動ができなくなっている場合があります。このような場合、早めに弁護士などの専門家の適切な助言に触れることがとても重要です。


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