「逃げ恥」の事実婚は有効? 偽装結婚・偽装離婚の有効性

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TBSの人気ドラマ「逃げ恥」。物語は佳境に入り、平均視聴率も20%を超える勢いです。大学院を出ても就職できず、見かねた父に紹介された「プロの独身」津崎との婚姻契約上の債務として必死に家事をこなす主人公、森山みくり。周囲に疑念を抱かれつつ、2人はやがて本物の恋人へ・・・。現実にも、結婚と非婚のいいとこ取りを狙って婚姻契約を望むカップルが少なくないことや、就活の厳しい現状が視聴者の共感を呼ぶのでしょうか。

ドラマの中のみくりは住民異動届に「未届の妻」と記載していますから、津崎とみくりの関係は事実婚、つまり婚姻届のない事実上の婚姻関係です。賃金の発生する主婦を被用者として雇用するために事実婚関係を設定したものとされていますが、そうだとすれば、2人が「離婚」した場合、財産分与など事実婚に認められる法的効果が生じることになるのでしょうか。津崎は財産分与を契約で排除できますし、そもそも2人の結んだ婚姻契約は、実際には雇用契約の内容の一部として虚偽の婚姻関係を偽装することを含むものと理解できますから、雇用契約の限度では効力を有するとしても、婚姻としては効力を生じないか、公序良俗違反で契約自体が無効となるような気がします。

みくりと津崎は、住民異動届の提出によって婚姻関係を偽装していますが、世の中には、婚姻の法的効果を得るために、偽の婚姻届を提出する人がいますから、これと比較してみましょう。典型的なものとしては、不法滞在の外国人が在留資格を得るために日本人との婚姻届を提出する場合ですが、ほかにも、多重債務者が信用情報を洗浄したり、同性愛者が同性愛であることを秘匿したりするために行われることがあります。同じことは離婚の場合にも言え、典型的なものとしては、債務者が強制執行を免れるために財産を配偶者に移転して離婚したことにするものや、生活保護を不正受給するためのものですが、最近多いと言われているのは、子どもを保育園に入れるために見掛け上シングルマザーとなり、入園審査で有利な加点を得ようとするものです。これらの中には、明らかに違法で社会的に許容できないものがある一方、あえて問題にする必要はないものもあり、その性質はさまざまです。

では、これらの婚姻届や離婚届は有効でしょうか。「有効」ということばの意味にもかかわってきますが、みくりと津崎の事実婚の効果を、これらの偽装結婚・偽装離婚との対比で考えてみましょう。

1 偽装結婚

まず、偽装結婚です。「婚姻は、届け出ることによって、その効力を生じる」(民法739条1項)とされていますから、婚姻届の提出があれば婚姻は成立します。相手方の同意もなく一人で勝手に婚姻届を出しても婚姻が成立するはずはありませんが、夫婦となるべき2人、例えば「逃げ恥」の2人が合意の上で婚姻届を出せば正式な夫婦になるのでしょうか。婚姻が成立するには「当事者間に婚姻をする意思」(742条)が必要ですが、少なくとも津崎にはとりあえずそういう意思はないようです。しかし、「婚姻をする意思」とは何でしょうか。届出で婚姻が成立するのであれば、2人に婚姻届を提出する意思があればよいようにも思えます。みくりも、婚姻届ではないものの、津崎の同意の上で住民異動届を提出しています。

最高裁判所は昭和44年の判決で「婚姻をする意思」を、「当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」と定義しました。何のことかよく分かりませんから、少し事件の中身をみてみます。
結婚を約束した若い2人が、両親に反対され、両親の目を盗んで5年間交際し、その間、女性は3度妊娠中絶します。女性は4度目に意を決して出産し、男性も一時は婚姻届を出すつもりでしたが、届出に至らないうちに2人の仲は疎遠となり、その間、男性には他の女性との縁談がまとまります。それを知った女性は、せめて子どもだけでも入籍させたいと男性に懇願し、男性はこれを拒むことができず、一旦婚姻届を提出し、子を入籍した後離婚するという合意をし、婚姻届を提出します。つまり、婚姻届の提出は、子に嫡出性を与えるためだけに便宜上行われたものでした。しかし、その後、女性が離婚を拒絶したことから、男性は婚姻無効の確認を裁判所に求めます。

この事件で、最高裁は、「婚姻をする意思」を先のように定義して、男性にはそのような意思はなく、婚姻は無効であるとしました。男性には婚姻届を提出する意思はあったが、婚姻届の提出によって、女性と夫婦であると社会から認められるという効果を生じさせる意思まではなかったということです。このような意思を、婚姻の本質的効果を受ける意思という意味で実質的婚姻意思と言いますが、婚姻には実質的婚姻意思が必要ということです。そうすると、先に挙げたような、不法滞在の外国人や信用情報の洗浄などの例でも、実質的婚姻意思はありませんから、婚姻は無効ということになります。
もっとも、みくりと津崎の場合、2人には周囲から夫婦であると認められるという効果を生じさせる意思があるようですから、津崎としては注意が必要です。

2 偽装離婚

では、離婚の場合はどうでしょう。これについても最高裁判例がありますが、少し結論が違います。昭和57年の判例です。

夫が病気で倒れ、収入の細った夫婦が、生活保護を受給するために離婚届を提出し、その一方で、従来どおりの夫婦生活を続けました。夫の死後、妻は夫の財産を相続する関係上、裁判所に離婚無効の確認を求めますが、最高裁は、この事件の離婚届は「法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたもの」であって、「離婚を無効とすることはできない」と述べて、妻の請求を棄却しました。夫婦には離婚するつもりはなく、生活保護を受給するためだけに離婚届を提出したのですから、先の昭和44年の判決からすれば、離婚届は無効になるように思われますが、最高裁の結論は逆でした。「ウソから出たマコト」になってしまったわけです。判決は、離婚については、婚姻と異なり、当事者に離婚届を出す意思があればよいと言っているようです。このような意思を、先の実質的意思に対し形式的意思と言いますが、離婚の場合には形式的意思だけで足りるということなのでしょうか。離婚についても婚姻に関する739条が準用されていますから、婚姻届と離婚届を統一的に理解できた方がすっきりします。

この2つの判決をどのように理解するかについては、学者の間で議論があり、今でも決着は着いていないようです。一つの有力な説明は、婚姻にせよ離婚にせよ、夫婦の問題だから、事後的に見て夫婦の間で問題がなければ偽装であっても、その効果を認めればよいのではないかというものです。昭和44年の判決では、婚姻が有効になることで、男性は意に沿わない結婚を強いられることになり問題がありますが、昭和57年の判決では、夫婦の間では、離婚を届け出たこと自体からは何の問題も生じておらず、むしろ、狙いどおり生活保護を受給できたわけですから、そのまま離婚を成立させてもよいというわけです。違法な在留資格の取得や信用情報の洗浄、同性愛、強制執行逃れ、保育園の入園審査などでも同じことがあてはまり、後から見て婚姻の当事者間に重大な不利益が生じるのであれば婚姻や離婚を無効にする必要が出てきますが、そうでない限り、有効として認めればよい、要するに夫婦の間に問題がなければ放っておけばよいということになります。みくりと津崎の場合にも、2人の間でこのまま問題がなければ、「ウソがマコト」になる可能性があり、ここでも、津崎は注意が必要です。

判決がどのような理屈を基礎にしているのかは分かりませんが、昭和57年の判決で離婚を無効にした場合、妻は不正に受給した生活保護を受け取ったまま、相続では妻としての有利な地位を回復できることになり、ずるいような気もしますし、夫は既に死亡しているのですから離婚したままにしておいても問題がないような気がします。最高裁の判断には、そのような考慮もあったのではないでしょうか。
いずれにせよ、昭和57年の判決は、離婚について一般的な解釈を述べたものではないようですから、同じような事件が今後裁判で争われた場合、どのような判決が出るかは分かりません。具体的な事件の事情に応じて判断は変わる可能性があります。

3 第三者との関係について

昭和57年の判決で離婚が有効とされた以上、妻は不正に受け取った生活保護をそのまま維持できるということになるのでしょうか。離婚無効確認の訴えは、人事訴訟法上の訴えで、その判決は第三者、つまり社会一般との関係でも効力を生じますから、生活保護の支給主体である市との関係でも離婚は有効になります。そうだとすれば、偽装離婚による生活保護の不正受給を防ぐことはできなくなってしまう可能性がありますが、そんなことが許されるはずがありません。離婚の実態もないのに離婚の外形を作出して生活保護を受給した場合、公正証書原本不実記載及び詐欺という立派な犯罪が成立します。離婚の事実だけで生活保護を受けられるわけではありませんから、不正受給の事実があれば、市は生活保護の支給を停止し、既払い分の返還を求めることができます。

にもかかわらず、偽装離婚を利用した生活保護の不正受給がなくならないのは、偽装離婚と真実の離婚の境目の判断が現実には難しく、国や地方自治体がつぶさに調査する余裕がないことや、生活保護の支給決定には支給権者の一定の裁量がはたらき、本当に怪しいものは支給決定段階でフィルターに欠けることができること、そして、生活保護のような社会保障制度では、制度があれば制度を悪用する人が必ず一定数存在し、福祉給付はそのような不正の存在をある程度前提にして制度を設計せざるを得ないという事情があるからだと思います。偽装離婚の効果が認められることとは直結しません。

信用情報の洗浄、同性愛、強制執行逃れ、保育園の入園審査などの場合も、第三者が偽装された婚姻関係や離婚を問題にしても意味がないか、婚姻や離婚の有効・無効を問題にするまでもなく、それぞれの法律関係において問題を解決できればよく、偽装結婚や偽装離婚の効力自体を問題にする必要はあまりありません。例えば、債務者が債権者の差押を免れるために偽装離婚して、財産分与や離婚慰謝料として財産を配偶者に移転した場合、詐害行為取消という制度で、財産を債務者のもとに返還させることが可能です。
結局、偽装された婚姻や離婚の有効・無効は、それを誰が何故問題にするのかという点に帰着することになるのだと思います。