「相続税」と「贈与税」……両者の違いを知って、気持ちいい遺産承継を!

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「相続税の節税対策」が紹介されるときには、しばしば「贈与税」の話が挟まってくるものです。混同されがちな両者ですが、まずは「相続」とは何か、「贈与」とは何か、という原点から紐解いていきます。

1 「相続」と「贈与」の共通点と違い

相続とは何か

相続とは、人が保有している財産や負債など、あらゆる権利や義務を、他の人が包括的に承継することをいいます。
あらゆる資産が一括で、他の人の手に渡ることになります。

そして、「相続は、死亡によって開始する」(民法882条)とされ、「相続は、被相続人の住所において開始する」(民法883条)ともされています。

つまり、相続が起きる時間と場所は、他にずらすことができないのです。遺言の検認や相続税の申告など、相続をめぐるほとんどの手続きが、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所や税務署で行われるのは、そのためです。相続人が、被相続人と別居独立していた場合は、手続きを遠隔地で行わなければならない点で不便に思うことが多いでしょう。

法律上、人には、「自然人」と「法人」の2種類があります。

相続が起きるのは、自然人だけです。法人は、相続によって財産が他に渡ることもありませんし、相続によって財産を受け取ることもありません。
法人の経営者が死亡したからといって、法人名義の資産が相続されるわけではありません。経営者個人の名義になっている資産は、たとえ会社の業務で使うものであっても、相続の対象になりうるわけです。
法人の経営を後継者に任せることは、事業承継(経営の引き継ぎ)として、相続とはまた別途行う必要があります。相続とは違って、死亡をきっかけに有無を言わさず始まるものではないのです。

法人は「死亡」しませんが、それに近いことが起きます。破産などの清算手続きや、買収ないし吸収合併などのM&A手続きをきっかけに、事実上消滅し、その資産が他の法人へ一括して渡ることもありえます。しかし、相続とは違って、タイミングや清算方法については、選択の余地があります。

贈与とは何か

贈与については、民法549条で定義されており「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」とあります。

相続が、その人の持つ財産が、負債も含めて相続人に渡る「包括承継」であるのに対し、贈与は、その人が持つ一部の財産だけを相手方へ渡す「特定承継」だという違いがあります。

一方の当事者が意思表示し、相手方が受諾するということですから、相手が受諾しなければ贈与は成立しません。つまり、売買や賃貸借などと同じ「契約」なのです。
その点で、有無を言わさず、とりあえず相続人に一括して遺産が渡り、後で「承認か放棄か」を選択する相続とは異なります。

また、贈与は自然人だけでなく法人でも行えますし、自然人と法人の間で契約することも可能です。タイミングも場所も相手方も自由に決めることができます。
贈与は「契約自由の原則」が当てはまりますから、相続と違って様々な面で自由度が高いのです。

遺言書に書き記しておくことで、遺産を他の人へ渡す意思表示をする「遺贈」もありますが、遺言を書いた人の死亡をきっかけに始まる、特殊な贈与の一例といえます。

以上のことから、相続と贈与は、むしろ相違点のほうが多いといえます。大きな共通点があるとすれば、「無償で譲渡する」というところぐらいです。

そもそも、無償で財産を他人に渡すほど経済的に余裕があるのなら、そこに重めの税金を課して、社会全体で分配しようという発想から、「相続税」や「贈与税」があるのです。

そして、贈与と相続の数少ない共通点である「無償譲渡」という特徴から、税制の仕組みの上でも、相続税と贈与税では重なり合う部分があるのです。

2 贈与が相続税の対象になる例

贈与は原則として贈与税の対象です。しかし、例外的に相続税が課される場合もあります。

  • 相続開始(死亡)直前3年間に行われた贈与
  • 遺言によって行う遺贈

相続開始直前の贈与は、あからさまに相続財産を減らして相続税の納税を回避しようとする行為として使われることが多かったため、税収の財源を確実に補足できるよう、(たとえ贈与税が課税されない場合だとしても)例外的に相続税の課税対象としています。

遺贈は、本人の死亡をきっかけに始まる無償譲渡で、相手の受諾もなしで行われるという点で、相続との共通点も多いため、相続税の課税対象になります。

3 相続税と贈与税、その課税システムの類似点と違い

百万円単位の額の贈与があれば、そこに贈与税が課されますし、数千万円単位の遺産が残っていれば、相続税が課税される対象となります。

ただし、贈与税や相続税などの直接税は、額が小さければ非課税であり、大きな額が動くほど、そこに優先して課税しようとする発想で動いています。そうして、社会全体の公平性を保とうとしているのです。

よって、贈与税と相続税のどちらにも、一定額以下であれば課税しない「基礎控除」の枠があり、基礎控除を超えた額であれば、額が大きければ大きいほど税率も高くなる「累進課税」の制度が採用されています。

基礎控除と累進課税がある点では、贈与税と相続税は共通しているのですが、その金額や税率に大きな違いがあります。その違いを使って節税を行うことになります。

贈与税
贈与額 税率 控除額
(年間110万円まで) 0% (基礎控除)
~200万円 10%
~300万円 15% 10万円
~400万円 20% 25万円
~600万円 30% 65万円
~1,000万円 40% 125万円
~1,500万円 45% 175万円
~3,000万円 50% 250万円
3,000万円~ 55% 400万円
相続税
相続遺産額 税率 控除額
(3,600万円+600万円×法定相続人数) 0% (基礎控除)
~1,000万円 10%
~2,000万円 15% 50万円
~3,000万円 20% 200万円
~1億円 30% 700万円
~2億円 40% 1700万円
~3億円 45% 2700万円
~6億円 50% 4200万円
6億円~ 55% 7200万円

基礎控除額が大きく違う

基礎控除とは、贈与や相続で動いた額が、その金額以下であれば非課税とする制度です。基礎控除を超えた金額分が、課税対象の額となります。

贈与税については、年間(毎年1月1日~12月31日)110万円の贈与につき、無条件で非課税となります。
つまり、111万円の贈与で、そのうち1万円に対して課税されることになり、税率10%で、1000円の贈与税が課される計算になるのです。

相続税については、3600万円+法定相続人数×600万円までの相続について、非課税とします。つまり、相続人が多いほど、結果として節税になるという側面もあるのです。

また、贈与税は、基礎控除額も低いですし、3000万円の贈与額で、最高税率(55%)に達します。しかし、贈与は相続と違って「契約」ですので、何度も繰り返し行えるメリットがあります。
贈与税の課税対象総額は、毎年正月を迎えるたびにリセットされます。同じ額を贈与するのなら、一括で贈与するよりも、計画的に毎年コツコツと贈与をし続けたほうが、結果として税率が抑えられますし、控除の総額も年々蓄積されて大きくなります。

相続時精算課税は、贈与税の特例

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母、あるは祖父母から、20歳以上の子や孫へ、財産を贈与した場合、贈与額2,500万円までは非課税となる贈与税の特別控除枠です。ただし、相続が始まったときに、相続税が課されるだけの遺産が確保されているから、贈与税が非課税とされた生前贈与も相続財産に上乗せして相続税を計算するのです。

制度の名前のイメージから誤解されやすいのですが、相続時精算課税は贈与税に関する制度です。それでも、贈与税を掛けなかったぶんを、後で相続税として徴収するという、いわば納税猶予(先延ばし)の性格がありますので、相続税とも関連する制度といえます。

さらにいえば、遺産の総額が相続税の基礎控除など、控除の枠内に収まっていて、相続税が課される見込みがないのなら、納税は先延ばしにすらならず、非課税のままとなります。つまり、この2,500万円の控除枠を使って、生前贈与額の納税義務が丸ごと浮くことになりますので、節税対策としてお得になるのです。

相続税の回避ができないよう、贈与税がつくられた!?

相続税は「高い高い」といわれがちですが、移転する額に対する課税という点で絞り込めば、贈与税のほうが負担が大きいといえます。

それでも、相続税の課税対象となる見込みの方は、贈与税が非課税となる基礎控除枠を狙って、子どもなどに年間110万円以内の贈与を粛々と行っているのです。

しかし、それではラチが明かない面もあるだろうということで、2500万円までを上限として特別に非課税とした「相続時精算課税制度」が設けられています。
日本国内の家計資産残高は1746兆円(2016年4~6月期)であり、そのうち半分を超える額が現金ないし預貯金となっています。そのうち70%近くが50代以上の高齢層が保有しており、世代間の資産の偏在が社会問題になっています。
そこで、贈与が相続税の潜脱策として使われるのは、国家として困るという考えがある一方で、今後の国家政策としては「高齢層から若年層へ、資産を移して経済を活性化したい」というのが本音でしょう。そこで、親から子へ、祖父母世代から孫への資産移転を税制によって促進しようとしているのです。

名実ともに「贈与」とするため、今すぐできること

後々の相続税を減らすために、生前の親から子へ贈与が行われる場合、起こりがちなのが、「子に贈与を受ける意思があるかどうか、明確でない」という問題です。

子の名義で銀行口座を作って預金をしておき、しかし、通帳や印鑑、キャッシュカードは自分で保管している。子は、自分名義の口座があることすら知らない。それでも「贈与した」と思い込んでいる方は意外と多いようです。
ただ、既にご賢察のように、これでは子に贈与を受ける意思があることが明確ではありません。民法上の行為能力が備わった成人の子であれば、贈与契約は成立していないといえます。

また、お金の流れを客観的に記録しておくという観点からも、相続税対策としての贈与は、直接の手渡しより銀行振り込みのほうが望ましいといえます。

さらに、形式だけでなく実質的にも贈与といえるよう、通帳などの管理は子に行わせなければなりません。

さらに、税務署から問い合わせがあったときに贈与の事実を証明するものとして、贈与契約書を作っておくべきです。

注意点

贈与契約書は「毎年」作成するようにしましょう。数年分の契約書を一度に作ってしまえば、最初に決めた贈与を数年にわたって分割払いしたものと税務署に判断され、思わぬ贈与税が課せられる危険があるからです。

契約書には、贈与の日付、受贈者、贈与の対象物を明記し、もしあれば、贈与の条件や方式も記すようにします。

「毎年110万円以内の贈与」の証拠を残すには、他でもないその年に確かに贈与が行われたことを示せたほうが確実です。契約書の日付については、客観的な立場からの立証ができるよう、公証役場で公証人から確定日付を取得できればいいでしょう。手数料は一件につき700円です。

贈与者と受贈者の署名は直筆であるべきですが、契約書に押す印鑑は、認印でも構いません。受贈者が未成年者であれば、その法定代理人(親権者)の氏名も書きます。

贈与の対象物が不動産(土地・建物)の場合は、契約書に200円の収入印紙を貼ることが必要となります。これは契約を結ぶにあたっての「印紙税」の課税となります。
印紙税は、その契約の裏側に、大きな経済的利益の移転があると類型的に認められる際に課される税金です。文書によって取引関係を立証するための手数料に似た意味合いもあるとされます。
なお、贈与の対象物が現金や預貯金、株式などの場合、収入印紙は不要です。

納税にあたっての申告期限

贈与税の申告期限は、一般の所得税の確定申告に似ています。毎年2月1日から3月15日まで(土日と重なる場合は延長)に、前年の1月1日から12月31日までに行われた110万円を超える贈与を申告します。基礎控除額の枠内である110万円以下の贈与は、申告が不要となります。

相続税の申告期限は、相続が始まった(被相続人が死亡した)のを知った日の翌日から数えて10か月以内となります。「知った日」ですので、相続人が置かれていた事情によって申告期限が異なることもありえます。


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