サービス残業をさせられても、残業代はあきらめない!

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労働基準法を守らない「ブラック企業」と呼ばれる会社で、従業員に「サービス残業」をさせる(残業や休日出勤をさせても、その対価を払わない)ことが横行しています。
そうしたブラック企業の経営者は、若い従業員たちに向けて「将来のでっかい夢のために、今はとにかくがむしゃらで頑張れ」と叱咤激励し、「俺が若い頃は、会社で徹夜したもんだ」と、昭和の価値観を押しつけてきます。
どんな理由を付けようと、従業員のプライベート時間を削って「ただ働き」をさせることは正当化されません。

事業を立ち上げたばかりで、なかなか利益が出ずに赤字続きなので、コストカットのため、みんなには残業代をいったん我慢してもらう……と考える経営者もいますが、本末転倒です。人を雇うための最低限の責任を果たせない人は、ひとりで起業すべきなのです。

1 基本的な労働時間について

従業員の労働時間は、週40時間(1日8時間×5日)が基本です。従業員の労働時間を延長したい会社は、働く側との間で協定を結んで、労働基準監督署に届け出た後でなければ、残業を命じることはできません。そして、残業代は通常の給料の1.25倍を支払うのが基本です(1.5倍が上限)。給料をもらって働く従業員が1人しかいない会社でも同じ手続をとる必要があります。

もしも、従業員が残業をしたのに、その対価である残業代を支払っていないとしたら、その会社は従業員に対して債務不履行(契約違反)を犯していることになります。非常に悪質な場合は、労働犯罪として検挙されて、1~6か月の懲役、または1~30万円の罰金に処される可能性まであるのです(労働基準法119条1号)。

会社からまだ支払われていない残業代(未払い残業代)は、当然に正当な権利として、会社へ請求することができます。基本給が月25万円の従業員の場合、平均して1日に1時間のサービス残業があったものと仮定すれば、遅延利息も含めて1年間で50万円近くを請求できるといわれます。とても大きい額です。
ただ、未払い残業代の消滅時効は2年と、かなり短いです(労働基準法115条)。しかも、未払い残業代を請求して会社に楯突いた後に、さらに勤め続けるのも気まずいと考える人もいます。そこで、残業代すら出ないブラック企業でも、2年間は我慢して勤め上げ、辞職届を出すと同時に未払い残業代を取り戻そうとする人が増えています。
残業代も払わないブラック企業では、労災保険にすら加入していない場合もあり、その場合は失業手当が出ません。そんなときに、未払い残業代としてまとまった額を受け取れれば、会社を辞めてもしばらくは安心といえるでしょう(未払い残業代なので、本来は毎月の給料と一緒にもらうべきだったお金ですが……)。

また、不景気が続いている状況で、従業員が会社の犠牲にさせられる「未払い残業代」問題が深刻化していることから、こうした未払い残業代の一括請求の案件に、積極的に取り組む弁護士も徐々に増加しています。

2 消滅時効が2年以上に延びる場合もある

残業代を払わないだけでなく、以下のような労働環境すら整えていない企業は、裁判所から「悪質」と認定される可能性があります。

  • それぞれの従業員について、出勤時刻や退勤時刻を記録して残しておくための手段を用意していない場合(例:タイムカード・ICカードなどが、従業員が使えるようなかたちで設置されていない。着替え時間や待機時間を労働時間に入れていない)
  • 誰が、いつ、どれぐらい残業しているのか、現場を管理する責任者が確認していない場合(例:それぞれが自分の判断で残業しており、事後報告もさせていない。持ち帰り残業もある)
  • 残業をした従業員が、残業時間を把握して、会社の未払いがあった場合はスムーズに残業代を請求できる制度を備えていない場合

そして、会社の「悪質性」が判断されると、過去2年を超える未払い残業代を請求できる場合があるのです。

広島高等裁判所2007年9月4日判決(杉本商事事件)

会社は、全体で一斉に行う時間外労働については残業代を支払っていましたが、それ以外で従業員が個別に行った残業については、残業代が未払いとなっていました。
従業員が未払い残業代を請求しましたが、会社側は「残業をするときは、事前に会社に申請して許可を得るルールがあったが、誰も申請しなかった」「残業の実態については関知していない」と反論して争ったのです。
裁判所は、残業を指示してはいないものの、各従業員について残業をせざるをえない状況に追い込んでおり、黙示の(黙って示した)残業の指示があったと認定。さらに、従業員の勤務時間を把握する義務を怠っており、労基署の指導があったにもかかわらず無視し続けており、それどころか、退勤時間について虚偽記載もさせていたといいます。残業を事前申請して許可を得るルールも、実質的には形骸化していたとして、会社には従業員に対する不法行為があったと認定したのです。つまり、故意または過失によって従業員の権利を侵害していたと認定し、損害賠償として未払い残業代を請求するよう命じました。

民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

このように、サービス残業がほとんど確信犯的に行われていた悪質なケースでは、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、不法行為を知ったときから3年となりますので、過去3年分の未払い残業代を請求できることになります。さらに、悪質な違反企業に課される「付加金」と呼ばれるペナルティ(労働基準法114条)も、このケースでは50%上乗せで課されています。

長野地方裁判所佐久支部1999年7月14日判決(日本セキュリティシステム事件)

警備会社の警備員が、休憩や仮眠時間(手待ち時間)について、残業代や深夜労働の割増し賃金が支払われていないとして、会社を訴えた事例です。
会社は、2年以上前の未払い分については、消滅時効が成立しているとして争いましたが、裁判所は会社が不誠実な態度を取ったことから、消滅時効を主張することを認めませんでした。
タイムカードなど、出退勤時間を把握する手段は用意していましたが、タイムカードの内容を従業員に見せず、そのために未払い残業代の計算に相当な期間が必要となったため、訴えが提起されることを2年以上も会社が妨害したような形となっていたのです。この場合に、会社側に有利となる2年の消滅時効を成立させるのは、信義則に反し、権利の濫用であるとして許しませんでした。

民法 第1条(基本原則) 〔中略〕 2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。 3 権利の濫用は、これを許さない。

3 「隠れサビ残」問題

先ほどの「日本セキュリティシステム事件」では、「手待ち時間」が残業としてカウントされなかったということが、未払い残業代請求に繋がりました。

あなたの会社でも、知らず知らずのうちに「隠れサービス残業」が行われているかもしれません。念のため確認しましょう。

残業代を15分単位などで計算、端数を切り捨てている

本来、残業代は「1分単位」で計算して支払わなければなりません。たとえば15分単位や30分単位で残業時間をカウントし、端数を切り捨てるような運用は違法です。
たとえば、9時10分まで残業していたのに、9時15分に満たないから、端数を切り捨てて9時00分までの残業として計算した場合は、その切り捨てられた10分ぶんが、未払い残業代となっている状態です。
金額としてはわずかですが、ちりも積もれば2年間で数万円にはなるでしょう。

もっとも、15分単位でも、「端数切り上げ」ならば、労働者に有利なので問題となりません。
ただ、9時3分で退社したのに、9時15分までが残業とカウントされれば、従業員がダラダラと無駄な残業を繰り返すとの実態もあります。経費削減のため、「1分単位」の計算に切り替える企業も増えているようです。
また、「9時7分までは切り捨て、9時8分までは切り上げ」といった、中間的な扱いも合法です。
残業時間を15分単位にすること自体が問題なのではなく、残業時間の端数を全て切り捨てる扱いが「未払い残業代」を生むということです。

着替え・清掃・電話番・朝礼や終礼の時間

会社指定の制服や作業服に着替える時間帯、始業前にオフィスなどを掃除する時間、たとえ弁当などを食べていても電話番を兼ねている時間帯、朝礼や終礼の時間は、すべて原則として「労働時間」としてカウントしなければなりません。

ただし、制服などに着替える場所を特に指定せず、会社の更衣室でもいいし、自宅から着てきても構わないと自由に定めていれば、着替えの時間は原則として労働時間になりません。

最高裁判所(第一小法廷)2000年3月9日判決(三菱重工長崎造船所事件)

作業服に着替える時間は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、労働基準法上の「労働時間」に該当する、とされました。
このケースでは、始業時間の午前8時に間に合うよう、着替えを済ませて作業場に到着するものとされている職場でした。
この場合は、着替え時間と、更衣室から作業場までの移動時間などを労働時間として、これは時間外労働であり割増しの賃金を支払うべきだとしたのです。

長崎造船所のケースで従業員が着るのは、保護具や工具なども装着する特殊な作業服であり、自宅から着てくると通勤中に他の人の服を汚したり傷つけたりしかねず、様々な不都合があるという特殊性がありました。

早出勤務(朝残業)

深夜まで残業するよりも、朝のほうが頭がスッキリしていてはかどるという人も多いでしょう。また、都心部では満員電車を避けるために早めに出勤しておきたいと考える人もいます。
こうした早出勤務も「時間外労働」で、割増しで賃金を支払う必要があるのでしょうか。実際には、早出勤務をしている従業員のほとんどが、割増しどころか1銭も受け取っていません。もし、早出勤務が「労働時間」にあたるとすれば、サービス残業に該当しますが、その点が争われた裁判例があります。

東京地方裁判所2013年12月25日

「終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり、始業時刻前の出社(早出出勤)について、通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や,生活パターン等から早く起床し、自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであることから、早出出勤については、業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである」

どうやら、「業務上の必要性がある早出勤務」をしていた時間は「労働時間」に含まれるということかもしれません。
ほとんどの会社は、「各自の判断で自主的にやっていることだから」と考えていて、そこを労働時間に含むことには抵抗があるかもしれません。ただ、その「自主的な判断」の中身が、客観的にみて業務上の必要性があるために実施している早出勤務なのかを、可能ならば個別に検討すべきかもしれません。
いつの間にか蓄積していた未払い残業代を請求される訴訟リスクを抱えるぐらいなら、企業としては時間外労働として公式に認めて割増し賃金を支払うか、業務上の必要性がない早出勤務を全面的に禁止するか、などの経営判断が必要と思われます。
もし、早出勤務をしている従業員が、後で未払い残業代を会社に請求するつもりであれば、それぞれの朝にどんな業務上の必要性があって、何時間何分の早出勤務をしたのかを日々記録しておくと、有利な証拠になる場合があります。

持ち帰り残業

職場で「ノー残業デー」が設定されていても、今夜やらなければどうしても納期に間に合わない…… という場合は、自宅に仕事を持ち帰る場合があるかもしれません。

自宅で仕事をしているぶんには、会社による指揮命令が及ばない上に、業務実態を把握できないことから、労働時間に含まれないようにも思われます。
しかし、会社からの指示がある場合や、たとえハッキリした指示がなくても明らかに就業時間内でこなせる分量を超えている場合は、会社が持ち帰り残業を「黙示に指示した」と認定される場合があります。

そもそも、持ち帰り残業は、いくらでもサボれる一方で、真面目な性格の従業員にとっては「過労」や「睡眠不足」の状況を引き起こしかねません。2011年には、20代の英会話学校の講師が、持ち帰り残業の抱えすぎでうつ状態になり、自殺するという痛ましい事件もありました。

持ち帰り残業は、未払い残業代の問題というよりも、従業員のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を崩しかねないという点に注目すべきです。また、会社のノートPCを持ち帰る途中で、盗難・紛失に遭い、重要な顧客情報や営業機密が流出するおそれもあります。
会社にとっては、持ち帰り残業を全面的に禁止したほうが、訴訟リスクをより回避できるものと思われます。

みなし残業代(固定残業代)

みなし残業代とは、毎月の給料にあらかじめ、数時間分の残業代を固定で上乗せしている場合の、上乗せ額のことです。
よって、毎月決まった時間分以上の残業をすることは確定ということになります。残業代の煩わしい計算が減りますので、会社の経理担当者にとっても負担が減るメリットがあります。

残業ありが最初から確定になっても「頑張って働く」ということならいいのですが、このみなし残業代が、残業代が未払いになる元凶となる可能性があるので、気をつけなければなりません。
たとえば、月5時間のみなし残業代が支給されるとして、ある月に8時間の残業をしたのなら、必ず3時間分の残業代が計上されているかを確認しましょう。
みなし残業代は、「残業を定額でやり放題」という意味ではありません。超過分の残業代は受け取り権利があります。
また、今までの給与の中に、一部みなし残業代を含む扱いとすることにも気をつけてください。それは実質的に給与の減額となりますので、事情を従業員にわかりやすく説明することが最低限必要になります。

名ばかり管理職

たとえば、会社の取締役など、役員は労働者ではないので、残業代を支払う必要はありません。
このほか、労働者であっても、残業代(時間外手当)の支払いが必要のない場合があります。

労働基準法 第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)

この章〔第4章〕、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

この原則を悪用して、飲食チェーン店の店長やマネージャーなどの役職者を、役員に類似の「管理監督者」と位置づけて、長時間のサービス残業を正当化したことがあります。
比較的新しい労働問題であり、2010年頃から表面化しました。

しかし、労働基準法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」は、経営者と一体的な立場といえるほどの地位にある必要があるのです。法的に客観的に決めるものであって、企業が独自に「管理監督者」に指名しても、それだけで残業代を払わなくていいわけではないのです。
法的な「管理監督者」としての実質がないのに、組織内で名目上の「管理職」ということにして、違法なサービス残業を正当化していることから「名ばかり管理職」と呼ばれるのです。