無自覚のうちにセクハラ加害者にならないために

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「セクハラ」という言葉は1970年代にアメリカで創り出された造語で、日本では1986年西船橋駅ホーム転落死事件で使われたことをきっかけに、1989年に新語・流行語大賞の新語部門で金賞を受賞し広く一般的に使われるようになりました。しかし、「セクハラ」という単語が登場してから今日まで「セクハラ」として扱われる内容が増えています。セクハラにあたるか否かは、発言や行為をした人にそのような意図があったかどうかではなく、相手が不快や不安を感じるかどうかが判断基準となっているため、「どのような行為がセクハラになるのか」の判断が難しくなっており、相談窓口への内容も「身体を触られた」など明らかに行為者にセクハラの意図があったことが推察できるようなケースよりも、行為者にセクハラの意図がないにも関わらず「セクハラ」と受け取られるケースによる相談が増えつつあります。今回は、不快に感じる言動にはどのようなものがあるのか例をあげながら、無自覚のうちにセクハラの加害者にならないために気をつけなければいけないことをご説明します。

1 個人的な好意による言動もセクハラになる!?

セクハラは性的な言動で相手に不快感を与えるものであるため、男性から女性に対しての行為と考えがちですが、性別や年齢または立場などは関係なく女性から男性、部下から上司、または同僚や同姓同士での言動も、性別を意識した内容を含んでいて相手が不快に感じるものであればセクハラにあたります。例えば、好意を寄せている異性に執拗にメールを送ったり食事に誘ったりした場合、求愛の意図であったとしても相手の人がその行為を不快に感じるとセクハラになります。その他、カラオケでのデュエットを強要する、過去の恋愛経験や「彼氏・彼女はいるのか」「まだ結婚しないのか」という質問を執拗に繰り返す、スリーサイズや嗜好・服飾の趣味などについて執拗に質問する、お酒の席で無理矢理異性を隣に座らせるなどの行為は、たとえそれが個人的な好意による恋愛アプローチだったとしても、世間一般的には「性別」を意識した言動であり、相手が不快だと感じればセクハラにあたるとされています。
相手が不快に感じていることを承知しているにも関わらずその行為を継続するのは明らかに悪質なセクハラですが、中には相手への好意による言動である場合もあります。最近は異性からの言動に対して少し過敏になり過ぎているのではないかと思う事例も見受けられますが、両者のコミュニケーション能力の低下が原因の1つになっているのではないかと思われます。近年メールやチャットツールなど対面を必要としないコミュニケーション手段が発達したことにより、相手の口調や表情から気持ちを読み取る能力が低下していることは否定できず、更にチャットツールについては短文での会話が中心になるため、伝える能力が低下しているとの指摘もあります。伝える能力の低下と読み取る能力の低下が混在している状況で、正しく双方の意思疎通を図ることは難しく、それが無自覚のセクハラを生み出す要因の一つになっていると思われます。

2 「性」が強調された掲示物によるセクハラ

職場の掲示用ポスターや職場のパソコンの壁紙にグラビアやヌードの画像を使用した場合、それらは複数の人の目に触れる可能性があり、いかなる理由があっても世間一般的には「性的な画像」と感じるものであるためセクハラにあたるとされています。
2015年に三重県にあるイベント企画会社が、「可愛い海女を目指す17歳」という設定の萌え系キャラクターを制作し、
海女の多い志摩市は「アニメを通じて海女や市を知ってもらいたい」と考え、これを公認キャラクターとしました。いずれも、セクハラが目的ではなく、可愛らしいイラストの方がより好感度が上がるのではないかという思いでの決定でしたが、海女を中心とする市内の主婦が「胸など若い女性の体を強調して描かれており不快だ」として公認撤回とポスター撤去を求める署名を提出したため、市は謝罪するとともに公認を撤回しました。
また、岐阜県美濃加茂市観光協会が、胸元が協調されたアニメキャラクターのポスターを掲示したところ「女性の目から見て不愉快」「職場に貼られたらセクハラになる」との批判が相次ぐという騒動がありました。観光協会担当者にセクハラの意図はなく、問題となったキャラクターの登場するアニメが同市の県立加茂農林高校を舞台に描かれたものであったため、アニメファンを取り込み市の宣伝をすることを目的として製作したものでしたが、批判を受けてポスターを撤去しています。
いずれの事案も使用したイラストに対する市民の反応は賛否両論ありましたが、これにより、自分自身の画像が使用されたわけではなくても、「性」が強調された掲示物を公の場で目にすることを不快に感じる人が多数いるということがわかります。

3 過度の指導はセクハラになる!?

どの集団でも新しく入った人に対して何らかの指導が必要になりますが、行き過ぎた行為はセクハラにあたります。例えば、不必要に手や肩などの身体に触れる、個室で個別に指導を受けさせられる、性別を理由にお茶汲みやお酌をさせられる、「男のくせにこんなこともできないのか」「女のくせに気がきかない」など性差別的な発言などがあります。指導する側の立場としては、新人のうちに甘えをなくす、気遣いの大切さを教える、早く仕事を覚えてほしいという思いでの発言や、スキンシップをコミュニケーションの一貫と考えているかもしれませんが、相手の受け取り方次第ではセクハラにあたるとされています。「拒否されないから嫌がられていない」と受け取るのは非常に危険で、立場的に拒否の意思表示ができない状況にある可能性が多々あります。特に職場においては社員よりもパートタイマー、アルバイト、派遣社員などの非正規雇用者は、拒否の意思表示をすることで仕事を継続できなくなってしまうのではないかという不安感から、不快に感じていてもその意思表示をすることができない場合があります。相手の気持ちに気付かずに「拒否の意思表示がない=承諾」と勘違いして同様のことを繰り返すと相手のストレスも増大し、最悪の場合はセクハラとして訴えられてしまう可能性があります。
それに関連した新たな問題として、指導中の行為について「セクハラ」と訴えられるのではないかという恐怖心から、新人や後輩の指導を行うことや職場の人と関わることを避ける人が増え、コミュニケーション不足から職場内での連携がとれない、いつまでも新人が育たないなど、企業にとってマイナスとなる状況が増えつつあります。厚生労働省がセクハラ対策を職場に求めているのは、セクハラにより労働者が退職を余儀なくされるなどの不利益を救済することと共に、労働者が減少し企業成長にとって不利益となる状況を改善するためであり、セクハラ対策による処罰を恐れる余り職場内のコミュニケーションが悪化し事業が円滑に進まなくなってしまう状況は好ましくありません。安心して意思表示ができる風通しのよい雰囲気作りと併せ、セクハラの本質を知り、自分の価値観と相手の価値観は必ずしも同じではないということ、人との付き合い方や所属する集団に対して求めているものも年々変化していることを理解し節度ある態度で接することが大切です。

4 無自覚のうちにセクハラ加害者とならないために

コミュニケーションをとりながら円滑な人間関係を築いていくことは社会生活における基本ですが、最近はそれが上手く機能していないケースが多くみられます。コミュニケーションとは一方的に情報や意思の伝達だけでなく、両者間で意思の疎通を図り互いに理解し合うことによってはじめて成立するものです。本人が無自覚のうちに相手が「セクハラされた」と感じることの多くは、真意が正しく伝わっていないというミスコミュニケーションによるものです。自分の考えを相手に理解してもらえるよう正しく伝える努力をするとともに、相手の立場に立って考え、相手を思いやる気持ちや相手の考え方を理解しようと努力する姿勢がコミュニケーション能力を培い、誤解によるセクハラトラブル防止へと繋がります。
一般的にセクハラは職場内で問題となるケースが多くみられますが、男性教員が女性生徒の身体にむやみに触るなどの学校内におけるセクハラの他、「男のくせに」「女なんだから」などの性差別的な発言によるセクハラは、職場に限らず地域活動団体、ボランティア活動団体、家庭内など、社会全般に何等かの集団が存在するところでは起こりうる問題のため、決して他人事ではありません。セクハラは非常にデリケートな問題で、同じ言動でも、不快に感じ「セクハラだ」と受け取る人、ただの冗談と受け取り聞き流す人、求愛や親愛の言動と受け取る人など、当事者の性格や相手との関係性により大きく変化します。また、1986年に男女雇用機会均等法が施行された時は「昇進、配置、教育訓練、退職、解雇などの労働条件について女性であることを理由に男性と性的に差別して扱うことを禁止する」内容となっており、企業側がセクハラや性差別に関する問題についての相談受付、解決援助を行う対象を「女性」に限定して義務付けていました。しかし近年、女性が職場で胸元の大きく空いた服を着る、女性が男性に不必要にボディタッチする、「男のくせに」などの性差別的な発言をするなど、女性から男性へのセクハラ行為が問題視されるになるようになり、2007年の改正により企業に対して「性別を問わず全ての労働者を対象としてセクハラ対策を行うこと」が義務付けられ、女性だけでなく男性もセクハラ被害者として相談窓口の利用や解決援助を行う対象として扱われるようになりました。その後、2014年7月の改正では同性愛者やトランスジェンダーなどのLGBTに対して「ホモ(レズ)は気持ち悪い」「カマっぽい」などの発言や、本来の性と合わないしぐさを治すよう指示する行為などの性差別的な言動もセクハラにあたるとされました。このように、どのような言動がセクハラにあたるかは社会情勢に応じて刻々と変化していますが、決して理由なく変化しているものではなく不快な性的言動だと感じている被害者が実際にいるために追加されている事項です。セクハラにあたるとされる内容は「世間一般的に不快と感じる性的な言動」であるとされていますので不必要に恐れる必要はありませんが、日頃から自分と相手が風通しのよい関係であるよう考慮し、相手の気持ちに配慮した言動を心掛けることが大切です。