病気を治療中の従業員を解雇できるか? 知っておきたい2つの裁判例

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1 病気療養中の従業員の解雇 ―― 岡田運送事件(東京地方裁判所 2002年4月24日判決)

どのような事例か?

運送会社に運転手として採用された従業員が、その3年後に脳梗塞と診断され、下半身不随の症状が出た。通常通りの勤務が困難になったため、会社にはその旨の診断書を提出した上で、従業員は長期欠勤を始めた。

やがて、日常生活で他人のサポートが要らない程度にまで回復したが、会社からは再三にわたる退職勧奨が行われていた。欠勤が3カ月継続された頃、会社は「無断欠勤(届け出なしの欠勤)」を理由として、その病気療養中の従業員の懲戒解雇を行った事例である。

どのような判決が出たか(判決理由の意訳)

⇒ 懲戒解雇としては無効だが、普通解雇として有効(会社側の実質勝訴)

普通解雇は、労働契約の解約である。一方で、懲戒解雇は企業の秩序に違反する行為を行った従業員に対するペナルティであり、両者は同じ解雇であっても法的な性質が異なる。

よって、懲戒解雇の意思表示の中に普通解雇の意思表示が含まれるという関係性にはない。懲戒解雇の意思表示がなされたからといって、当然に普通解雇の意思表示が行われたと認めるわけにはいかないのが原則である。

ただし、懲戒解雇に至るまでのプロセスにおいて、その労働者との雇用関係を解消したいとの意思を会社側に認めることができる場合には、例外として、懲戒解雇の意思表示の中に、予備的に普通解雇の意思表示が含まれていると考えるべきである。

本件で、会社は従業員に対して、懲戒解雇処分を言い渡すまでの条件を満たしていない。しかし、その従業員は脳梗塞の症状に関する療養中であり、もはやその健康状態では配送業務に当たる運転手としての業務に堪えることはできないと会社は考えていたと認められるため、懲戒解雇の意思に普通解雇の意思が含まれていたと考えるべきだ。

よって、本件の解雇は普通解雇として認められる。

休職の制度は、解雇処分とする前段階として「解雇の猶予」を可能とするものだが、だからといって「休職している間は解雇されない利益」を従業員に保障する趣旨ではない。
解雇するかどうかの判断の点は会社側に裁量権があり、その裁量を逸脱したとみられるような特別事情でもない限り、解雇は無効にならない。

「岡田運送事件」に関するコメント

懲戒解雇が行われたとき、仮に懲戒解雇が認められないとしても、普通解雇として有効かどうかを予備的に検討できることを前提としている点で、この判決には前例的な価値があります。
一般論として、ケガや病気によって今までの業務に堪えられなくなった従業員の事情は解雇事由となりますが、その前にクッションとしての「休職制度」があります。
一般的には、休職期間が終わった後に、その従業員を解雇すべきかどうかを検討することになりますが、休職期間中に解雇されたからといって、当然に会社側の権利乱用であるとはいえないとの基準を示した裁判例です。


2 病気によって専門職で働けなくなった従業員の解雇 ―― 中川工業事件(大阪地方裁判所 2002年4月10日決定)

どのような事例か?

製造業を営む会社で溶接工として働いていた従業員が、糖尿病による神経障害で1カ月入院した。
退院して職場復帰したが、その作業能率や完成度が低かったため、会社は治療に専念するように従業員に指示した。
会社は、同じ社長が経営する別会社で単純作業に従事するよう提案するも、従業員はその提案を断った。それを受けて、会社は従業員を解雇した。

しかし、療養中の従業員はその解雇を不服として、会社を相手取り提訴した。

どのような判決が出たか(判決理由の意訳)

⇒ 解雇は無効である(従業員側の勝訴)

従業員の症状からすれば、従来までのような溶接業務に就くことは不可能、あるいは非常に困難だと言わなければならない。

ただ、職種が限定された雇用形態ではなかった。会社は、今までのような業務が難しいと知りつつも、従業員に対して休職を命じず、配置転換について慎重に検討することもなく、解雇している。
別の関連会社で働かせる検討を行うも、従業員が断ったため配置転換ができなかったと会社側は主張するが、労働条件が異なる可能性があるため、その点の説明義務が会社にはあった。しかし、会社はその義務を怠っている。

以上のことから、解雇は不合理だったといえる。会社による権利の乱用として無効とすべきである。

「中川工業事件」に関するコメント

岡田運送事件と同じように、病気療養を要する従業員をめぐる解雇の事案でしたが、岡田運送事件とは違って、本件では会社側の全面敗訴となっています。

岡田運送事件の事例では、会社から従業員に対して退職勧奨を繰り返し行われていたため、従業員が退職後どうするかの対策を考えたり、前もって対策を実行に移したりする時間的余裕もありました。一方で、中川工業事件ではそのような猶予的措置すらなく、配置転換の検討すらされずに従業員が解雇されたことから、会社側の都合が押しつけられ、従業員に対する配慮が足りなかった面を重視して判断されたとみられます。