従業員のミスや不祥事による解雇 ― 知っておきたい3つの裁判例

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1 寝坊で放送事故を2回も起こしたアナウンサー ―― 高知放送事件(最高裁判所 1977年1月31日)

どのような事例か?

会社(放送局)にアナウンサーとして勤務する従業員が、朝6時からのラジオニュース放送のため、宿直勤務を行っていたところ、寝過ごしてラジオニュース番組の最初の部分について、ニュースの読み上げに従事できなかったという放送事故を、わずか約2週間の間に2回起こしてしまった。
2度目の放送事故の際には、アナウンサーはその事実を上司に報告していなかった。上司から報告書の提出を求められると、虚偽の内容を記載して提出した。
会社は、アナウンサーを懲戒解雇とすることもできたが、今後の再就職などの事情も考慮して、普通解雇とした。
しかし、アナウンサーは解雇を不服として、会社を相手取って提訴した。

どのような判決が出たか(判決理由の意訳)

⇒ 一審・二審・最高裁とも、解雇は無効(アナウンサー側の勝訴)

一般論として、就業規則で解雇すべき事由に当てはまる場合であっても、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときは、会社による解雇は、権利の乱用として無効になる。

たしかに、朝6時からのラジオ定時放送を行い続けることで、放送局は聴取者から信頼を得ることができるのである。寝過ごしを原因として定時放送を2週間の間に2度も実現できなくするアナウンサーの行為は、放送局の対外的な信用を著しく失墜させる。

さらに、2度目は率直に自分の非を認めなかったというアナウンサーの態度を考慮すると、アナウンサーの側にも一定の落ち度があるというべきだ。

その一方で、寝過ごしはアナウンサーの悪意によってなされた行為ではなく、過失が原因である。しかも、通常はニュースの「FAX担当者」が先に起きて、アナウンサーを起こす手はずになっていたものの、2度ともFAX担当者が寝過ごしている。つまり放送事故の発生原因をアナウンサーのみに押しつけるのは酷である。

また、アナウンサーは起床後一刻も早くスタジオ入りするよう努力しており、平常時の勤務態度にも問題ない。短期間に2度の放送事故を起こしたために、報告書の提出に気後れしてしまった点を強く責めることはできない。
会社は放送事故が起きないよう万全の対策を取るべき立場にいたのに、何の措置も講じていなかったし、過去に放送事故を理由として従業員を解雇した前例がなかった。

以上の事実から、アナウンサーに対して解雇処分で臨むことは、過酷にすぎる。
よって、「解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないとき」と考える余地があり、会社による解雇処分は、権利の乱用として無効だとすべきである。

「高知放送事件」に関するコメント

確かに、寝坊によって発生した放送事故は重大なミスであり、見過ごすことはできません。それでも、正社員であるアナウンサーの身分は、そう簡単に解くわけにはいかず保護されるべきであり、解雇できる場面は極めて限定的でなければならないという立場を前提にした判例だといえます。


2 運転手が営業運行中のバスを「私物化」 ―― 西武バス事件(最高裁判所 1995年5月30日判決)

どのような事例か?

会社に就職し、バス従業員として稼働していた従業員は、一日の勤務終了後の夜、同僚の従業員と一緒に飲食店でプライベート時間を楽しんでいた(しかし、バス運転士の制服は着用したままだった)。
その翌日は早朝勤務が控えており、バスの営業所で仮眠を取らなければならなかった。従業員は、その仮眠を取るべき営業所を終点とする同社の最終バスを、バス停で約2分間待たせて、飲食店での支払いなどを済ませて乗車し、営業所へ向かった。
そのバスは、すでに到着予定時刻から10分ほど遅れてバス停に到着していたにもかかわらず、さらに運転手の個人的な理由でバスの運行を遅らせた点について、同乗していた乗客から「運転手が、営業中のバスを私物化していいのか」と、1時間ほどクレームを受けた。
翌朝、その従業員は予定通り、早朝勤務を無事にこなしている。

会社はこの私物化やクレームが不祥事であるとして、就業規則に基づき、従業員を即日解雇した。しかし、従業員はその解雇を不服として、会社を相手取って提訴した事案である。

どのような判決が出たか(判決理由の意訳)

一審は、会社による解雇を有効と判断した。

しかし、二審は、会社による解雇を無効と判断した(従業員側の逆転勝訴)。

⇒ 最高裁は、二審の判断を指示した。(従業員側の勝訴で確定)

従業員は、酒に酔った勢いとはいえ、同僚のバス運転士に頼んで、その当時まさに乗客を乗せて運行中のバスを約2分間待たせるという不祥事を行った。ここまでバスを待たせるのは一般の乗客にとっても躊躇われるものであり、確かに不謹慎な行為といえる。
しかも、その当時に従業員は制服を着た状態であって、他の乗客から見ても、明らかに公共交通機関の運行を私物化した行動における外観があった。乗客からクレームが入ったのも当然のことである。

ただし、翌日の早朝勤務のため、営業所に戻って就寝しなければならなかったところに、たまたま同僚が運転する営業所行きのバスが通りかかった事情があるため、そのような行為にも同乗すべき余地もある。
さらに、その日の最終バスの運行であるため、一般の乗客であってもある程度融通を利かせて、運航時間が多少遅れる結果となるにしても乗車させることもありうる。

様々な証拠を総合的に考え合わせたところ、実際には、従業員が遅らせた運行時間は40秒程度と認められ、クレームを付けた乗客や会社が作成した懲戒処分決定書に書かれていたような「2分間」の遅れまではなかったとみられる。

よって、この不祥事だけでは解雇を認めることはできないし、その従業員が他に解雇を有効とするほどの不祥事を起こした証拠もない。

したがって、会社が行った本件の解雇は社会通念上の相当性ないし合理性を欠くものであって、権利の乱用であると認定すべきである。

「西武バス事件」に関するコメント

この場合も、「高知放送事件」と類似点があります。従業員に落ち度のある不祥事を繰り返さず、誠実に対応をしており、普段の勤務態度がまじめである点に共通点があります。
むしろ、一度や二度の失敗や信頼失墜行為をもって、会社が解雇を決定するような態度は性急なのであって、もう少し従業員側に汚名返上のチャンスを与えるべきだろうという判断です。

3 自分勝手でやる気が感じられない従業員 ―― 日本ストレージ・テクノロジー事件(東京地方裁判所 2006年3月14日判決)

どのような事例か?

約30年の営業経験を買われて、会社に中途採用された従業員は、物流セクションに配属され、顧客への商品の納品を担当していた。
しかし、従業員は1年近く業務を行っても、商品の欠品を生じさせたり、業務に必要な書類の提出が繰り返し遅らせたりもしていた。
また、不誠実さや協調性のなさが出ている勤務態度について、社内外からクレームが入るようになっていた。

上司に当たるマネージャーが再三にわたって注意を行ったが、従業員は反省の態度を見せようとはしなかった。
そこで、従業員はグローバルサービス本部へ配置転換が行われた。そのうえで、同本部の上司は「これが最後のチャンス」である旨を従業員に告げた。

しかし、異動後も従業員の不適切で不誠実な勤務態度が改まることはなく、以前と変わらず苦情が相次いでいた。

会社の就業規則では、その従業員の言動は普通解雇事由に該当する可能性があったが、会社は穏便に済ませるため、退職を勧奨した。しかし、従業員が拒否したために解雇に至ったものである。

しかし、従業員は解雇を不服として、会社を相手取って提訴した。

どのような判決が出たか(判決理由の意訳)

⇒ 解雇は有効である(会社側の勝訴)

就業規則の解雇事由に形式的に該当するだけで解雇が有効に行えるわけではないが、本件のように上司の再三の指導・注意にもかかわらず勤務態度をまったく改めず、反省の態度を示さなかったなかったことを考えると、Xの解雇を権利濫用とするのは難しいと言わざるを得ない。

たしかに従業員には、会社の業務の遂行に求められる事務処理能力やコミュニケーション能力などを著しく欠くと認められる。本件で会社が行った解雇処分は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な事情があったということができる。

「日本ストレージ・テクノロジー事件」に関するコメント

正社員として採用した以上、会社がその人を簡単に解雇することが許されないことは既に述べたとおりです。しかし、このケースは、従業員が上司から再三の注意を受けても改善しなかったというところに、長期的な雇用関係の前提となる「従業員と会社の間の人的な信頼関係の破壊」があったものと見るべきであり、会社による「解雇もやむを得ない」と判断されたと考えられます。