交通事故でできた「顔の傷」 被害者の性別によって賠償額に差が付く?

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交通事故で相手方にケガを負わせてしまった場合、加害者が負担すべきなのは、その治療に直接かかった費用(積極損害)だけではありません。
被害者が入院加療などで仕事ができなくなり、その間の収入が断たれたり、大幅に減少したりした場合には、その差額を消極損害として賠償する必要があります。

では、交通事故で顔面にケガを負った場合はどうでしょう。治療費などの積極損害については賠償する必要がありますが、顔の表面に目立つ傷の後遺症が残った場合、それがどれだけ収入(消極損害)に影響しうるかが問題となります。

問題は、仕事に差し支えるかどうか

すでに仕事に就いている事故被害者で、その職種を今後も続けて、その職種の性質から、顔の傷のせいで収入が将来的に(現在も含めて)減少することが認められない場合には、「特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はない」とされています(最高裁判所1981年12月22日判決)。
顔に深い傷を負って、その傷跡がなかなか消えないほど深いものだったとしても、事故後の収入減少は存在しない、消極損害は認められないというのが、裁判所の採用する基本原則なのです。

しかし、交通事故をきっかけに長期入院を余儀なくされ、そのせいで仕事を失うこともありえます。顔面に深い傷を負うことで、初対面の相手への第一印象にマイナスの影響を及ぼし、再就職が非常に難しくなってしまうことも、職種によっては十分にありうるでしょう。特に、受付業務や営業担当スタッフ、ホステスなど、接客や対面コミュニケーションが主に求められる職場です。あるいは、講師やアナウンサー、芸能人、モデルなど、人前へ積極的に出たり、フォトジェニック性(写真うつり)が要求されたりする仕事を目指そうとしても、事故がきっかけでチャンスが閉ざされてしまうかもしれません。

「女は顔だ」と、裁判所が認めた?

従来、交通事故などで顔面に傷が残った場合には、女性について「労働能力等が低下する」とされ、より多くの賠償が認められてきました。未婚か、それとも既婚か、といった違いでも、賠償額に差が生じる傾向もみられました。
ただ、女性の容貌に対して、いわば高い経済的価値があると司法が事実上認めることは、かえって性差別的ではないかと批判されていたのです。
男性の俳優やアナウンサー、ファッションモデルなども、女性に匹敵するほどの容姿が求められる昨今です。また、多少の傷であれば、女性はメイクで隠せるけれども、男性は通常、化粧をしないので傷跡を隠す方法がありません。むしろ、男性のほうが顔の傷跡に対する社会的ダメージが大きいのではないか、という意見もあります。
かつては、同じような顔面の負傷でも、男女で大きな慰謝料の差が認められるのが通常でした。しかし、時代によって社会通念が変化するにつれ、その差は年々縮まってきているのです。

ケース1

福岡県の小学6年生の少年が、自転車に乗って交差点を通過していたとき、クルマと衝突。これによって、少年には顔の真ん中に目立つ傷を負い、後になっても傷跡が消えなかったという事例です。
少年側は、この顔の傷によって、将来、就ける仕事の範囲に制約が生じる(顧客や取引先と顔を合わせる機会が多く、第一印象が大切な接客や営業などに従事することが困難になる可能性が高い)と訴えて、慰謝料を含む1860万円の損害賠償請求を起こしました。
福岡高等裁判所1997年3月25日判決は、顔の傷について、60歳になるまで労働能力が9%ほど喪失され、その喪失分(逸失利益)が損害にあたると判断。精神的苦痛に対する慰謝料も含めて、684万円の支払いを加害者に命じています。

ケース2

都内でクルマ同士が接触事故を起こし、被害車両が車道の外に追いやられ、電柱に激突したというケース。被害車両の運転手には、額の左に3センチメートル以上の線状の傷跡が残ったが、ある程度近づいてよく観察しなければわからないほどの傷跡である。
200万円の賠償を認めた。(東京地方裁判所2009年1月14日判決)
このケースでは「男子」の「外貌に醜状」というレベルであり、「14級」が適用される場面でした。通常であれば「100万円」ということになります。
もちろん、顔に大きな傷があること自体で、その人の労働能力が直接低下する場面は稀でしょう。ただ、対人関係やコミュニケーションの面で、消極的・及び腰になったりすることはありえます。その場合は、間接的に労働能力に影響を及ぼす可能性が無くはないのです。
本件では、被害者の男子にこの「間接的に労働能力に影響を及ぼす可能性」を認定し、100万円にさらに上乗せした「200万円」の賠償を認めたのでした。

2011年、男女差は埋められた

国土交通省が交通事故の公的な賠償基準として定めている「後遺障害別等級表」によれば、かつて、事故が原因で「外貌に醜状」を残した場合、女子は「12級」、男子は「14級」とされ、「外貌に著しい醜状」を残した場合は、女子「7級」、男子「12級」とされていました(等級が「1級」に近づくほど、損害賠償額が高くなっていく傾向)。
こうした基準は、性別による差別をしない「法の下の平等」を保障した日本国憲法14条1項に反するのではないかと、幾度となく裁判で争われてきました。それに対して、裁判所はことごとく「憲法に反しない」と判断し、訴えを退け続けてきたのです。
しかし、大きな山が動くときが来ました。2010年5月27日、京都地裁で、顔に傷跡が残った際の損害について男女差を設ける等級表の基準は、憲法に反しており無効と判示されたのです。
この裁判においては、厚生労働省が策定する労災保険の「障害等級表」に関して、その違憲性が指摘されました。ただ、国土交通省の「後遺障害別等級表」も、ほぼ同様の基準を参考にしていたため、行政としては、その基準を使い続けるわけにはいかなかったのです。
そして、2011年2月以降は、男性の障害等級の基準が女性並みに引き上げられました。それにより、性別によって等級に差を設ける扱いが削除されたのです。
現在では、「外貌(見た目)」に関する障害別の等級が3段階に増えました。「外貌に著しい醜状」が残る場合を7級、「外貌に相当程度の醜状」が残っている場合を9級、「外貌に醜状」が残っている場合を12級と定められています。

弁護士の力量によって、結果に差が付く

ただし、「後遺障害別等級表」は、賠償額を算出する上で絶対的な基準として存在するのではなく、あくまでもひとつの参考目安となる基準です。
交通事故でどのような傷害を負ったかで、どれほどの金銭的な埋め合わせが必要なのかは、被害者を取り巻くあらゆる事情を、総合的に考えに入れながら決める必要があり、まさに、ケースバイケース。
こうした総合判断が求められる場面では、交渉の代理人を務める弁護士の経験値や力量によって、賠償額に大幅な差が付いてしまうものなのです。