裁判より早い! 交通事故のトラブル仲裁機関 「ADR」とは何?

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ADRとは、「裁判外紛争処理手続」のことです。
一般的な知名度は、決して高くありませんが、交通事故などの法的なトラブルに巻き込まれたときは、裁判に次ぐ選択肢として知っておいていただきたいです。

交通事故のADR機関では、交通事故の処理に関して専門的な知識を備えた中立公正な立場の人が、加害者と被害者から、お互いの主張を聞いたうえで、示談や仲裁の案を提示し、トラブルの解決へ導いてくれます。
「裁判のようで、裁判でない」……独自のスタンスで、ADRは交通事故をめぐる揉め事を、解きほぐし続けているのです。

ADRのメリット

  • 裁判よりも、手続きが比較的わかりやすく簡易的
  • 裁判よりも、紛争解決までにかかる期間が短くて済む
  • 裁判よりも、費用が安い(無料の場合もある)

ADRのデメリット

  • 交通事故の処理の中でも、あまりに複雑で激しい争いがあるものは不向き(事故の態様をめぐる事実関係で対立するなど、多くの証拠書類が必要な争い、「後遺障害等級」の認定についての争いなど)
  • ADRでの紛争処理では、時効が中断しない(不法行為の損害賠償請求権の消滅時効は、被害者がその損害と加害者を知ったときから3年となっている。その時効が間近に迫っている局面で賠償請求権を行使し続けるためには、結局はADRのほかに裁判にも訴えなければならず、二度手間となってしまう)
  • 裁判よりも、費用が安い(無料の場合もある)

※裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)では、「民間紛争解決手続機関」として法務大臣の認証を受けているADR機関なら、条件付きで時効中断の効果があります。その認証を受けている交通事故系ADR機関は、「そんぽADRセンター」のみとなります(2016年現在)。


【実際の裁判例】横浜地裁2009年12月27日判決
日弁連交通事故相談センターへの示談斡旋申し立てをしても、時効は中断しない。

交通事故処理を専門とするADR機関

交通事故紛争処理センター

1974年に設立された、交通事故専門の伝統ある紛争処理機関であり、「紛セン」という略称でも知られます。
このADR機関を利用するためには、加害者の側が、示談代行サービス付きの任意保険に加入している場合でなければなりません。
加害者が加入しているのが自動車共済であっても、「JA共済」「全労済」など、片面的拘束力のある共済で、示談代行サービスの付いたものであれば利用できます(詳しくは、各共済に問い合わせることをお奨めします)。

ここでは、まず初回は、交通事故紛争処理センターの嘱託を受けた弁護士が法律相談を受けます。相談の結果、被害者と加害者の双方の言い分を聞いた上で、示談の仲立ちをすべきであると判断されたときに、「示談斡旋」というADR手続きに入ります(※ただし、物損のみの交通事故では、初回から示談斡旋に入る場合もあります)。
原則として法律相談を受けた弁護士が、そのままスライドで示談斡旋の場にも立ち会います。およそ2~5回の話し合いの末に、示談案が提示されます。ちなみに、話し合いで当事者が3回来訪するまでに全体の71.9%、6回までの来訪で96.3%について示談が成立しています(2012年実績)。

もし、提示された示談案に納得がいかず、示談斡旋が不成立となった場合には、次のステップとして「審査会」の審査と裁定を受けることができます。
この審査会には、専門の審査委員が3名関与し、やはりお互いの言い分を聞き入れた末に、裁定を下します。この裁定には、被害者さえ同意すれば、加害者や保険会社は、どれだけ不満が残っていても裁定に従う義務があります(これが「片面的拘束力」です)。よって、早期に示談が成立しやすいのです。

日弁連交通事故相談センター

このADR機関の特徴は、人身事故であれば、加害者が任意保険に加入していなくても利用できる点にあります(物損のみであっても、物損の示談代行サービス付きの任意保険や自動車共済に加害者が加入していれば利用できます)。

手続きの内容としては、交通事故紛争処理センターに類似しています。まずは弁護士が相談を受けて、示談斡旋、審査会という流れになります。
ただし、この審査会は、加害者が示談交渉サービス付きの自動車共済に加入している場合のみ利用できます(※民間の自動車保険(任意保険)会社は、日弁連交通事故相談センターの片面的拘束力協定を結んでいないことから)。

そんぽADRセンター(日本損害保険協会)

損害保険の利用者と、損保会社との間でトラブルが生じた場合に、紛争解決をする機関です。交通事故が専門のADRというわけではないのですが、ほかの一般的な紛争とは別に位置づけて「交通賠責紛争」と呼び、自動車保険の支払いをめぐるトラブルも多く処理しています。
まずは、「苦情解決手続き」で相談に乗り、それでもトラブルが解決できない場合には、「紛争解決手続き」に移ります。その後に、和解案が提示されますが、和解の余地がないと判断された場合は、和解案が出されずに終了することもあります。
また、交通賠責紛争のADRを受け付けるのは東京のみなので、日本全国に支部を持つ交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターよりは、使い勝手の点で後れを取っているかもしれません。これらADR2者をどうしても利用できない事情がある場合に、次善の策として活用するといいでしょう。
ただし、他にはない隠れたメリットもあります。そんぽADRセンターは法務大臣の認証を受けているため、ここに紛争解決を申し立てた場合、一定の条件付きで損害賠償請求権の消滅時効が中断するからです。
もし、そんぽADRセンターから和解案が出されないまま手続きが終了し、その和解不成立の通知を受け取ってから1か月以内に後に裁判を申し立てたならば、紛争解決手続きの申し立て時点にさかのぼって、時効が中断します(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律5条、25条1項)。
あなたが交通事故の被害者で、損害と加害者を知った時点から間もなく3年が経過しようとしている局面に置かれていれば、有効な選択肢になりえます。

自賠責保険・共済紛争処理機構

その名の通り、自賠責保険に関する紛争処理を専門に取り扱うADR機関です。自動車損害賠償保障法23条の5における「指定紛争処理機関」として、公式に国からADRを託されているのです。
自賠責保険に関する保険金の支払いや、過失割合の認定、後遺障害等級の認定などに不服がある場合には、この機構の「調停事業」が受け持ちます。特に後遺障害等級の認定に関するADR紛争処理は、この機構のみに管轄があります。
紛争処理の審査は無料で行われますが、書類審査のみであり、被害者や加害者の生の声を聴かれずに進められます。
もし、後遺障害等級をめぐる紛争で、実際にご自分の話を聞いて判断してほしいと望むならば、最初から裁判に訴えたほうがいいでしょう。

まとめ

交通事故のトラブルが完全に解決するまでの道のりは長いのです。人身事故であれば、まずは治療に専念し、治療が終わって損害が確定してから、示談交渉のステージへ移ることになります。
ただ、保険会社から提示された示談金の額などをめぐって、不服や不満があるときは、真っ先に「裁判」という選択肢が頭をよぎる方も少なくないと思います。ただ、裁判に訴えるとなると「大ごとにはしたくない」「これ以上、費用をかけたくない」と及び腰になりがちです。
しかし、まずは無料で相談できる窓口がたくさんありますので、そこで不満や納得いかない点を吐き出してみましょう。もし、相談で解決できなければ無料、あるいは安価で処理できる「ADR」、それでもダメなら「裁判」…… というふうに、段階がいくつも用意されています。