交通事故で、クルマに同乗していた「ペット」が負傷した場合はどうなる?

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日本は空前のペットブームとなっていまして、ペットを家族同然に愛情を注いで可愛がっている人々が大変多くなっています。犬や猫などをクルマに乗せて移動する人々も増えており、必然的に、ペットが交通事故に巻き込まれる危険が高くなっています。
ただ、犬や猫などのペットについては、法律上は「人の所有物」という扱いとなります。つまり、交通事故でペットが負傷した場合は、「物損事故」となるのです。
飼い主にとっては、あまりにも無慈悲な結論ではないでしょうか。動物を『物』として扱う、法律の結論に、とうてい納得いかず、腹立たしく思う方々も少なくないはずです。

ペットの交通事故は、刑事事件にならない

人がわざと犬や猫を傷つけたのであれば、もし、飼い犬や飼い猫であれば、最高で懲役3年(器物損壊罪)が科される犯罪となります。野犬や野良猫であっても、動物愛護法という特別法が適用され、やはり刑事処罰の対象となり、最高で懲役2年が科される可能性があります。
その一方、交通事故などの過失で犬や猫を負傷・死亡させた場合は、刑事事件にはなりえません。「過失器物損壊罪」という罪名は刑法にありませんし、動物愛護法違反も過失犯には適用されないからです。
ペットを交通事故に巻き込んだ件については、民事事件として、加害者が被害者へ賠償する(お金で償う)かどうかの問題に絞られるのです。

ケース1 名古屋高等裁判所2008年9月30日判決

普通自動車の後部に、大型トラックが追突する交通事故が発生し、自動車の後部座席にいたラブラドールレトリーバーが、頸椎を骨折し、後ろ足が麻痺して動かなくなったという事例。
治療費13万6500円と、飼い主の精神的苦痛に対して40万円(被害者にも過失が1割あったとして、過失相殺の結果 36万円)の慰謝料の支払いを命令。

判決理由

「一般に物損の修理費等については、当該物の時価相当額に限るものとされているが、愛玩動物のうち家族の一員であるかのように遇されているものが、不法行為によって負傷した場合の治療費等については、その生命の確保、維持に必要不可欠なものについては、時価相当額を念頭に置いた上で、社会通念上、相当と認められる限度において、不法行為との間に因果関係のある損害にあたるものと解するのが相当である」

この判決をどう見るか?

ペットは法律上、どうしても「物」として扱わざるをえないのですけれども、ペットが負傷した場合の治療費は、単なる「物の修理代」とは違う算定基準を用意しているわけです。
「ペット=人の所有物」という法律的な枠組みは維持した上で、ギリギリまで常識的な感覚に近づけようと、裁判官らが知恵を絞った結果だといえるでしょう。
実際、この裁判例の判決理由では、「近時、犬などの愛玩動物は、飼い主との間の交流を通じて、家族の一員であるかのように、飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくない」ということを、「公知の事実」(立証なしで認定できる、裁判所にとっての常識)として述べられています。ペットの存在が人間社会に深く関わっていく時代の流れに、裁判官が相当歩み寄った形跡が見て取れます。

それでも、ペットについて、時価相当額で価値を算出することを前提にする「物」として扱う以上は、人間が負傷したときよりも、賠償額を低く抑えるしかないようです。現に、本件の交通事故で重傷を負ったゴールデンレトリーバーの購入額は約6万円であり、時価相当額もその前後、数万円程度と考えられます。飼い主の感情をしっかり満たすような法的判断をくだすのは、なかなか難しいものといえます。
本件の場合、治療費として認められたのは、後ろ足が動かなくなったゴールデンレトリーバー用に制作した車いすの制作費など、13万6500円でした。
その一方、飼い犬のリハビリ治療や付き添い介護にかかった費用についても、飼い主は請求していましたが、裁判所は支払いを認めませんでした。購入額が6万円の犬なので、拡大損害が6万円を大きく上回る高額に及べば、「時価相当額を念頭に置いた上で、社会通念上、相当と認められる限度」を超えてしまい、賠償額に含むわけにはいかないのでしょう。
なお、本件では被害者側にも「1割」の過失があったとして、賠償額を1割減額する措置が執られました。「動物を乗せて運転する者は、犬用シートベルトのような動物の身体を固定するための装置を着けるなどの義務を負う」とされたのです。
「そんなこと、自動車学校で教わってないよ」「うちのポチは、運転中も大人しく座ってるから、ベルトを着けて縛るのはかわいそう」「そもそも、ぶつかったほうが悪いんだ」と、クレームを付けたくなるところかもしれません。
ただ、こういう判決が出ている以上、ペット用シートベルトやケージなどを車内に用意して、運転中に使用してなかったという理由だけで、今後の交通事故のときも不利に扱われる可能性があります。
そもそもシートベルトは第一に、大切なペット自身の命を守るための装備です。シートベルトがなかったから、後ろ足を骨折する運命に見舞われたものの、シートベルトがあれば無事だった可能性が高いのです。このような過去の交通事故事例から、教訓にすべきこともあるように思います。

ケース2 大阪地方裁判所 2006年3月22日判決

精神面での癒やしを目的とする「セラピードッグ」として飼われていたパピヨン犬が、自動車との衝突事故により死亡。同じく飼い犬のシーズーが坐骨骨折の傷害を負った事例。
被害者は100万円の慰謝料を請求したが、裁判所は10万円の慰謝料を認定し、加害者に支払いを命じた。

判決理由

控訴人(※被害者)は、パピヨンらをセラピー犬として飼っていたところ、本件事故によるパピヨンらの死傷により、精神的なショックを受け、病院への通院日数が増えたことが認められるところ、パピヨンらの死傷により控訴人が受けた精神的な苦痛に対する慰謝料としては、10万円を認めるのが相当である。なお、本件事故後の被控訴人(※加害者)の対応については、慰謝料増額事由とは認められない。

この判決をどう見るか?

本件では、このペットがセラピードッグという、飼い主に対する具体的な精神的な効用を期待して飼われていた点を重視しています。
そのペットが死傷することで、心の癒やしを失った飼い主の通院日数が増えるなど、具体的な精神的苦痛が行動面に表れています。そのことから、10万円の慰謝料を認めたのでしょう。健康な飼い主のペットが交通事故で亡くなったという事実だけで、10万円の慰謝料を取れるとは限らないことが、この判決理由から読み取れます。
また、加害者の事故後の対応が不誠実だった点を、被害者側は主張していましたが、そのことを理由としての慰謝料増額は認めませんでした。「物損で慰謝料は認めない」という原則を貫いて、ペットの慰謝料支払いをあまり拡大せず、抑制的に捉えようとした裁判所の態度が感じ取れます。

まとめ

今では、ペットが「家族の一員」というだけでなく、「社会の一員」としても注目され、人と動物がどのように共生し、お互いに共存していけるのか、その仕組みづくりが、現代社会の課題となっています。
ただ、一方で、そのペットが事故に遭った場合、決して十分とはいえない額の慰謝料しか認められない日本の司法の現状も横たわっています。
ペットの社会的地位に理解を示す判決文も、一部で出てきていますが、その理解が慰謝料の額として具体的に反映されるまでには、まだ時間がかかりそうです。
まずは、車内にベルトやケージを用意したり、散歩コースは公園や交通量の少ない歩道に限定したりするなど、ペットが交通事故で危険な目に遭わないための防御策を講じることが重要です。