示談の話し合いに応じない相手に送りたい、内容証明郵便という「手紙」

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この世で「交通事故に慣れている」という人は、まずいません。ほとんどが初めて経験することばかりでしょう。相手に治療費や慰謝料を払ってほしいのに、なかなか思うようにいかず、相手が話し合いの場に出てきてくれない事態もありえます。
示談については、交渉と法律の専門家である弁護士に依頼すれば、スムーズに進めてもらうことができます。相手の不誠実な対応にイラだったり、悲しまされたりすることも減ります。
しかし、「弁護士に頼む前に、自分でできることを何かやっておきたい」と思う方もいらっしゃるはずです。そのときに有効なのが「内容証明郵便」という手紙です。

1 内容証明郵便とは?

あなたが相手へ送った手紙の中に、何が書かれているのかを郵便局が証明してくれる書留郵便のサービスです。
さらに、配達証明付きの内容証明郵便にすれば、「いつ」その手紙が出されたのかも郵便局が証明してくれます(必ず、配達証明付きにしておきましょう)。

2 内容証明には、どんな効果があるか?

「言った」「言わない」の水掛け論を防ぐ

普通の手紙は、相手だけに伝わるように、封筒に入れて出します。むしろ、封筒に入れられた手紙の内容は、誰にも(特に政府に)知られないよう、「通信の秘密」(日本国憲法21条2項)が保障されています。
他人宛てに出されている手紙の封筒を勝手に開ければ、信書開封罪という犯罪にもなってしまいます(刑法133条)。しかし、手紙の内容が他の誰にも知られないということは、裏を返せば、普通の手紙に書いてある内容は、相手が揉み消そうと思えば揉み消せるということでもあります。
そこで、手紙の内容を郵便局という準公的な企業が裏付けることで、その揉み消し行為を許さないようにするのが内容証明郵便です。
特に交通事故の被害では、示談が成立した後に、思わぬ後遺症が生じて泣き寝入りさせられるおそれがあります。それでも、ただ賠償請求を諦めるのでなく、せめて内容証明郵便で主張して、後遺症が生じた事実だけでも相手へ正式に伝えましょう。
今後、裁判になったときに重要な証拠とするためにも内容証明郵便が使われることもあります。

心理的プレッシャーを与える

内容証明郵便は、法的な強制力・拘束力が与えられるものではありません。相手に対して「必ず返事をしなければならない」「必ず示談に応じなければならない」と強制することにはならないのです。
しかし、内容証明郵便には、裁判の可能性をほのめかす、物々しい文面と、いかにも普通の手紙ではなく、ただ事ではない形式と雰囲気があります。それにより、心理的に相手を動揺させることができます。これ以上は放ったらかしにできず、何らかの返事や対応をするしかないと思ってもらえるのです。
たとえ。交渉に慣れていない口べたな人であっても、文章なら強気に出られるという方も少なくないはずです。
示談に応じない相手を動かして、示談の場に引き出す目的を達成するためには、むしろ内容証明郵便が持つ「心理的プレッシャー」の効果に期待したいところです。

3 内容証明郵便を出さないほうがいい場合

相手がすでに、誠実な対応をしている

たとえ少し不十分なところや不満があっても、事故の相手方がしっかり向き合って対応しているのならば、その対応に感謝して、進めていくべきです。内容証明郵便を出すことは、相手を追い詰めて、感情を逆なでし、心を閉ざしてしまう危険があります。せっかく少しずつでも解決に向かっていた交通事故の処理が停滞し、かえって新たなトラブルになってこじれてしまいます。

今後も縁を切りたくない相手である

示談交渉の相手方が家族や友人である場合は、内容証明郵便を出したせいで、せっかくの関係性が気まずくなることも多いです。
交通事故の場合では少ないケースでしょうが、好意で車に乗せていた家族や友人が、自分の運転ミスのせいでケガや後遺症を負ったりした場合は、家族同士、友人同士が交通事故の加害者と被害者の関係になりえます。絶対に内容証明郵便を出してはいけない、というわけではありませんが、どのような内容を書くのか慎重に検討すべきです。

手紙の内容が感情的すぎて、脅迫めいている

内容証明では「法的手段をとらざるをえない」とさえ書いていれば、相手へ与える圧力としては十分に足ります。
事故の被害感情を長々と書いて責め立てたり、勢いづいて「返事を出さなければ、どうなるかわかっていますよね」といった脅し文句を書いたりすれば、かえって相手を警戒させ、かたくなな態度に変えかねません。むしろ逆に、内容証明を出した側が、脅迫罪・強要罪・恐喝罪などの犯罪で告訴されるおそれがあります。

4 内容証明郵便の方法

専用の用紙を使う

内容証明の手紙は、「日本法令」が出している原稿用紙のようなものを使って書くのが一般的です。大きな文房具店で販売されていますし、近ごろはネット通販でも売られています。1枚に書ける文字数が20字×26行と決まっており、誰かが文章の一部を消したり付け加えたりすることができないようになっています。
ひらがな・カタカナ・漢字・数字以外の文字は使えません。アルファベットは、氏名や住所の建物名など、固有名詞のみ使用が許されます。句読点やカッコも、それだけで1字分として書き記します。写真やイラストなどを添付することはできません。
そして、同じ文面を3枚用意します。1枚を相手へ送り、1枚を郵便局が保管、残り1枚は、あなたの手元に控えとして残します。
内容証明を受け付けるのは、郵便局ならどこでもいいわけではなく、郵便配達用の赤いワゴン車やバイクが駐車場に駐まっているような比較的規模の大きい「集配郵便局」が窓口です(一部、「無集配郵便局」でも受け付けていることがあります)。
ただ、手書きで文章を書く機会がめっきり減ってしまい、こうした作業に抵抗がある方もいらっしゃるでしょう。

電子内容証明(e内容証明)という選択

httpss://e-naiyo.post.japanpost.jp/

パソコンさえ使えれば、この方法は非常に手間がかかりません。内容証明で相手へ送付したい文面をパソコンで入力し、インターネットで送信すれば、あとは郵便局がすべての作業を受け持ちます。文面を紙に印刷して、封筒に入れ、手書きの内容証明と同様に書留郵便として配達してくれます。
同じ文面を3枚用意する必要もありませんし、24時間受け付けてくれるので時間帯を気にする必要もありません。Microsoft社の「Word」で作成した文書を、そのままアップロードできます(ただし、.docx形式のみ。写真やイラストなどは添付できません)。紙に比べると、書式の制限も少なく、従来の内容証明用紙3枚分の文章が、電子内容証明1枚分に相当します(最高5枚まで)。
かつては、専用ソフトのダウンロードが必要で、少々面倒でしたが、今はWebブラウザ上で手続きが完結します。料金はクレジットカード決済も可能です。
もちろん、紙でも電子でも、内容証明としての効果は変わりません。ただ、より強い心理的プレッシャーを相手へ与えるのは、手書きの方かもしれません

5内容証明の書き方

最低限、次のようなことは書いておくことが必要です。

  • 交通事故の事実関係 … いつ、どこで、どのような運転によって、どのような被害を受けたか
  • 相手の過失について … 「前方不注意」「脇見運転」「整備不良」「赤信号無視」など
  • 請求する損害賠償の内訳 … 「治療費」「通院交通費」「逸失利益」「慰謝料」など
  • 裁判など 法的手段の可能性 … 「○日以内にお返事を頂けないときは…」など、猶予期間を設ければ、相手に無用な反発を与えません。

6 内容証明が届かない!

内容証明郵便の書留が相手方へ届かない場合として、「留守・不在が続いている場合」と「受け取りを拒否した場合」「既に引っ越した場合・住所を間違えた場合」とがあります。

自宅の留守・不在が続き、しかも再配達の依頼もないまま1週間が経過すれば、内容証明郵便の書留は、差出人へ戻されます。最高裁判所の判例では、郵便局での1週間の留置機関が経った時点で、その内容証明郵便は相手へ「到達」したとみなした判断も出ています(最高裁判所1998年6月11日判決)。よって、「○日以内に返事がない場合は法的措置を……」と書いていた場合は、その到達日から数え始めていいことになります。

内容証明郵便の差出人の氏名を見て、だいたい読まなくても内容がわかる(自分にとって良いことは書かれていないと想像できる)場合には、相手方が受け取りを拒否することがあります。書留郵便といえども、郵便局員が受け取りを強制させることはできないからです。

相手方が既に引っ越した場合や、差出人が住所を書き間違えた場合などで、郵便局員による配達が不能な場合は「宛所尋ねなし」の郵便物として扱われて、すぐに差出人に返されます。この場合は内容証明郵便が相手へ「到達」したものとは扱われません。ご注意ください。

7 念には念を入れての「特定記録」

それまでの経緯で、相手方の態度が不誠実で、「たぶん、内容証明郵便を受け取らないだろう」と予想されるときは、内容証明と同じ内容の文章を「特定記録」の普通郵便で送るという手もあります。
仮に、配達員の手渡しでは受け取りを拒否したとしても、「同じ文書がポストに入ってますよ」「知らないとは言わせません」という、だめ押しの圧力をかけて、逃げ道をさらにふさぐことができるのです。

8 まとめ

普通の生活を送っていると、内容証明郵便なんてそうそう届きません。相手をギョッとさせて、少しでもこちらのペースへ引き入れる作戦としては有効に使えるのではないでしょうか。
事故処理の解決に協力的でない加害者を、いきなり裁判やADRで訴えるのも結構ですが、まず、内容証明を送って相手の出方を窺うという穏当な方法を挟んでおくことで、じわじわと追い詰めていく余裕のある態度を、相手へ感じさせることも可能です。
うまくいけば、相手が改心して示談に協力的になってくれるかもしれません。内容証明郵便を送ることそのものは、決して難しい手続ではありませんので、弁護士に依頼する前に一度試してみる価値はあります。