相談を待つのでなくて、掘り起こす。 / 浦崎 寛泰 弁護士


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刑事弁護人から依頼を受けての、福祉的サポート

浦崎 寛泰 弁護士

– 昔から正義感が強かったり、不平等が許せなかったりとか、そういうお子さんでしたか。

いや、そんなことはないですよ。普通の子どもでした。何をもって普通なのかという問題はありますが(笑)

高校の頃は混声のコーラス部にいて、全国大会で2位とか3位とかに入るほど熱心な部活だったんですが、男子部員と女子部員の人数に差がありまして、女子のほうが圧倒的に多いんです。だから、ただでさえ男声と女声のバランスが崩れそうなのに、ひとりの男性部員が辞めたいというと、必死に止めないといけないんです。私はパートリーダーだったので。

– それは大変ですね。部活全体の都合で、ひとりが我慢しなきゃいけないのかという問題がありますね。

そこなんです。合唱団全体の調和も尊重しなければならないし、辞めたいという部員個人の意思も尊重したい。今にして思えば、バカバカしいなと思うんですが、全体の流れに逆らうのって難しいなと思ったんです。強豪校なので顧問の先生の意思は絶対ですし、部長も「絶対に辞めさせるな」と言っている。まるで、中間管理職みたいな立場なんですよね(笑)

大会が迫ると、出場する部員を選抜するんですが、女性は人数が多いので争いも熾烈なんです。ただ、男性は練習をサボっている連中も全員もれなく選ばれるので(笑)、女性から不満の声がたくさん出ていました。

– そういう調整も必要なんですね。大変でしたね……。

仕方ないですが、やっぱり女性としては面白くないですよね。「大きな組織や社会のなかで個人の意思・権利をいかに護るか」という弁護士の仕事に漠然と憧れたのも、きっと、そういう経験が下地にあったと思うんです。

– 早い段階から組織を仕切る立場になると、社会への意識が高まるかもしれませんね。

社会全体の流れや、国の仕組みに逆らって、声を上げるのはすごく難しい。国や社会のような大きなものでなくても、小さな会社が相手だって、そこで働く従業員にとっては声を上げづらいものだと思うんです。

とにかく代弁者が必要です。その主張が正しいか間違っているかという問題とは別に、辛い状況に置かれている個人が声を上げる権利が保障されるためには、代弁者が必要なんです。

刑事弁護人も同じで、有罪か無罪かは最終的には裁判所が判断しますが、その判断の下地として、被告人を代弁する存在が必要となります。

私は東京TSネットという一般社団法人の代表を務めているのですが、被疑者や被告人に障害がある場合に、弁護人からの依頼を受けて、東京TSネットに登録している福祉の専門家、社会福祉士を拘置所や警察署に派遣するという事業を行っています。

– 弁護士さんからの依頼を受けて…… 初めて聞きました。

民間団体なんですが、社会福祉士さんへの謝金など、活動に必要な費用は弁護士会の基金から一部支出されることになっています。

福祉の専門家が関わって支援することによって、弁護人としては、被告人の将来の社会復帰に期待が持てることをアピールし、情状酌量を目指すにあたって有利な事情として法廷で主張することができます。

– 被告人の社会復帰を支援し、充実した弁護活動の支援にもなる、いい仕組みですね。こんなことをやっている人は、他にいるんですか。

公的な仕組みがないので、自主的に取り組んでいる方は各地にいらっしゃいますが、基本的には手弁当で行っています。そして、東京ではようやく弁護士会が、必要な費用負担をしてくれることになったわけです。

TSというのは、何の略なんですか。

トラブル・シューター、直訳すると「紛争を解決する人」ってことなんですが、TSというのは、われわれのような専門家とは限りません。障害のある方がトラブルに巻き込まれたら、加害者であっても被害者であっても、職業や資格などを超えて、地域全体で支えていく、その支援者を街の隅々にまで増やしましょうという取り組みです。

その支援者は、障害者の家族かもしれないし、商店街の八百屋さんかもしれないし、バスの運転手でもいいのです。