「少年だけでなく、自分も変わった」 家庭裁判所調査官からの転身 / 稲谷 陽一郎 弁護士


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判決に驚いて「腰を抜かした」被告人

稲谷 陽一郎 弁護士

– 今までの弁護士経験の中で、忘れられない印象的な案件というのはありますか。

弁護士になって初めて国選弁護人を務めたときの事件でしょうか。被告人は、とある暴力団の中の一組織の親分で、恐喝の容疑を否認していました。私も話を聞いたり、記録などを読んでいるうちに、この被告人はシロではないかと思うようになりました。

ただ、暴力団の事件については、一般的に、最初のスタートラインから有罪推定が働いてしまっているという印象があるのは、正直否めないです。しかも、当初就いていた私選弁護人が辞任か解任かになって、あらためて自分に国選のおハチが回ってきたというような特異な事件でしたので、裁判官も検察官も、当初は、こちらが争うのを冷ややかに見ていたかもしれません。

しかし、どんな人であろうとも、やっていない罪の責任を負わされることなど決してあってはならないのは言うまでもありません。結果、1年以上戦い続けたんですが、最終的に無罪判決を勝ち取ることができました。

– 1件目の国選弁護人の案件で、無罪を勝ち取れた理由について振り返ると、ご自身ではどう思われますか。

とにかく誠実に取り組んで、それが結果的に功を奏したんでしょうか。本来は無罪が出なければならない裁判なのに、私が担当したせいで有罪判決が出てしまう事態だけは避けなければならないと思っていましたので、そういう部分が生きたのかもしれません。

ちなみに、その事件の判決を言い渡すという法廷の場で、人が「腰を抜かす」というのを、私はそのとき初めて見ました。

– 腰を抜かした。誰がですか?

被告人がです。無罪の言い渡しを受けた直後でした。

– そうなんですか。本人も、否認していながらも覚悟していて、まさか無罪が出るとは思ってなかったんでしょうか。

そうなんでしょうね。立っていられなくなって、膝から崩れ落ちて証言台に掴まってないと身体を支えていられなくなりました。人が本当に腰を抜かすと、こうなるんだと初めて知りました(笑)

– ちなみに、崩れ落ちた後はどんな感じだったんですか。

無罪言い渡しの主文は最初なので、その後は、判決の理由の説明が続くわけですが、その間中ずっと立っていられない状態が続いていました。最初は無罪宣告で「ウワー」って傍聴席が沸き上がり、それに対して、裁判官が「静粛に!」と戒め、その後に被告人が崩れ落ちて立ち上がれず…、という流れでしたので、判決読み上げの最中は、法廷全体が何とも言えない空気になっていたような記憶です。
まあ、最後、閉廷した後は、被告人も回復して、検察官に少し悪態をついたりもしていましたですかね…(笑)
でも、その気持ちも分からないではないです。私が弁護人に就いたのは、逮捕されたときからは相当後でしたので、結果的に無実の罪で2年近くも拘束されていたわけですし。本人の立場になれば、たまったものではないですよね。

– 控訴はされなかったんですか。

はい、最終的には一審の判決が確定しました。

法律相談のスタンス

法律相談に乗るとき、何か気をつけていらっしゃることはありますか。

まずはとにかく、思っていること、おっしゃりたいことを全て出していただこうと、その点は心がけています。
弁護士が聞きたいことだけを聞き取るということはしないように、事務的な対応にはならないように、注意はしています。

法律相談に来られる方のお話には、法律問題がほとんど含まれていない内容である場合もありますが、それでもどうぞ気になさらずにという雰囲気は一応意識しています。
どこに問題があり、どういう解決方法がありえて、そのケースで弁護士を使うことが有効なのかどうか、そういったことを、相談者の方と共有できるようにしています。

法律相談に行ったら、必ず弁護士に依頼しなければならないなんてことは全くありませんし、こんなことを聞いていいものか、恥ずかしくないかとかいろいろ思われる方もいらっしゃいますが、構える必要は全然ありません。法律相談は、弁護士に依頼すべき事案かどうか、メリットやデメリットなどの判断材料を提供する場という程度のイメージですので。

こうしてインタビューしていても、率直に、話しやすい雰囲気はありますね。

そう言っていただけると、恐縮です。とにもかくにも依頼者あっての弁護士ではありますから、相談者や依頼者をないがしろにすることはないようにと自戒してはいます。

たとえば、5~6軒の法律事務所に、依頼を断られてしまったという相談者がお見えになることもあるのですが、よくよく話を聞いてみると、決して無茶な主張をしているわけではないことがわかったりすることもあります。

いろんなタイプの弁護士がいると思いますが、私としては、自分の手の届く範囲で、自分が責任を持って丁寧に進めていきたいと考えています。それが依頼者に信頼していただける一番大事なところかと思っています。