「少年だけでなく、自分も変わった」 家庭裁判所調査官からの転身 / 稲谷 陽一郎 弁護士


このエントリーをはてなブックマークに追加

現在は、簡易裁判所で中立的に調整する立場も務める

稲谷 陽一郎 弁護士

– 稲谷先生のお話を伺っていると、なんとなく、裁判よりも交渉・和解で解決するほうが多いようなイメージがありますが、いかがですか。

そうですね。私は、判決による解決よりも、和解による解決のほうが優れている場合が多いと考えながら仕事をしているタイプの弁護士だと思います。

もちろん、最初から和解を持ちかけることは、相手方には弱気に映りかねませんし、依頼者の期待に反することにもなりかねませんので、基本的にはすべきでないと思います。ただ、実際には、白黒がハッキリ付く事件ばかりではありませんし、仮に勝ち筋の事件であっても、徹底的に勝つよりも、少しは相手方に逃げ道を与えて、その言い分も酌み取りながら譲歩し合う形のほうが、最終的な紛争解決に繋がりやすいとは思います。しこりが残ったままだと、個々の事件単位では一応結着がついても、派生した問題が次から次に生じるということも少なくありませんので。

また、一概には言えないかもしれませんが、判決よりも和解の方が、実際の回収ということを考えても、奏効する場合が多いと思います。納得がいかない判決が出たら従わないということは起こり得ますし、その場合は強制執行に移るわけですが、それには費用もかかりますし、空振りに終わるリスクもあります。

特に個人間の紛争や、小規模な会社での紛争ですと、トラブルの中に「感情」が絡んでいることが多いので、概ね和解のほうが適しているという印象です。

もっとも、コンプライアンスを重視している大企業などのトラブルですと、中途半端な譲歩は社内のコンセンサスが得られない、株主総会で説明がつかない等の問題が起こり得ます。ですので、このような場合は判決の方が現実的な紛争解決に結びつきやすいと言えます。判決が確定すれば、執行云々という問題になっていくこともないですしね。結局は、「紛争を解決する」ということが目的ですので、そのために何が適しているかを考えていくということになるんだろうと思います。

– なるほど、依頼者本人の判断で進められるものは和解が向いていますが、それ以外にも利害関係者が大勢いる場合は、判決をもらったほうがいいということなのでしょうか。

ケースバイケースでしょうが、そういう傾向はあると言えるかもしれませんね。もちろん、依頼者ご本人がどうしても和解に納得できなくて、「裁判で白黒付けたいです」というご希望でしたら、そのご希望を潰すことはせずに判決を取りに行くことになります。ただ、その場合も裁判を進めるにあたってのメリットとデメリットは、きちんと説明するようにしています。

また、実際の裁判の場面でも、時折非常に攻撃的な内容の主張を見かけたりしますが、あまりそうしたことはしない方が結局は紛争解決に繋がりやすいかと思います。やはり敵方とはいえど、一定の共通理解を得る努力をしていかなければならないと考えています。

– 仮に裁判を起こすにしても、あくまでも、最終的な紛争解決を目指すための裁判なのですね。

そうですね。私は現在、簡易裁判所で週1回、民事調停官の職務も行っておりまして、中立公正な裁判所の立場で双方の当事者に働きかける仕事をしているので、「紛争解決」という第一義的な目的を、より強く意識しているのかもしれません。

– 弁護士でありながら、裁判官的な仕事もしているということですか。

はい。ただ、「調停」ですので、判決を下すことを求められているわけではなく、紛争を調整してまとめていくことが役割なのですが、いろんな種類の事件を扱えますし、いろんな弁護士の活動も拝見できるので、大変勉強になります。

– しかし、基本は弁護士の仕事をされているのですよね。

もちろんです。民事調停官は週1回の非常勤ですので。ただ、自分の置かれている立場の違いを意識することは、「バランス感覚」の涵養に資するところもあるだろうと思って、それぞれの仕事をしています。


法曹として優秀でありながらも、素朴な雰囲気を漂わせている弁護士は、都会だと意外に出会えないかもしれない。

控えめでありながらも本質的な部分は鋭く指摘し、目的意識を重視しながらも相手への傾聴や配慮は失わない稲谷先生の法律相談に、もし心地よさを感じるとしたら、ご本人の人柄と調査官時代に培われた対人スキルの賜といえるかもしれない。

いなたに法律事務所

稲谷 陽一郎 弁護士
いなたに法律事務所

千葉県立千葉東高等学校卒業
早稲田大学法学部卒業
2000年~ 甲府家庭裁判所調査官補
2002年〜 甲府家庭裁判所調査官
2004年~ 那覇家庭裁判所沖縄支部調査官
2007年~ 福岡家庭裁判所飯塚支部調査官
2007年 旧司法試験合格
2009年 旧62期司法研修所修了
2009年~ 福岡国際法律事務所入所
2012年 いなたに法律事務所開設

稲谷 陽一郎 弁護士の詳細はこちら