脳裏に「死」がよぎるほど追い詰められた人々を、法の力で支えたい / 巨瀬 慧人 弁護士


このエントリーをはてなブックマークに追加

– 現在、弁護士としての注力分野としては、どういったものになりますか。

なるべく仕事は選ばないようにしていますが、基本は、社会的に弱い立場に置かれる方の支援です。消費者問題ですとか、借金問題、従業員側の労働問題、離婚問題などは、自分なりに力を入れているつもりです。

– 今までで、特に何か思い出に残っている事案などはありますか。

うまくいって嬉しかった事案としては、刑務所の医療事故の裁判ですね。

刑務所内で起きた手術ミスについて、国を相手取って国家賠償請求をした事案で、首尾よく進められたという実感はあります。

– 裁判には勝てたのでしょうか。

はい、勝訴と言っていいと思います。

– 他の医療事故との違いはあるのですか。

やはり、刑務所という機密性の高い場所で行われたものであり、何が起きたかなかなかわからないという難しさがありました。協力してくれるお医者さんが遠方だったので、打ち合わせにも苦労しました。

– 国を相手にする裁判に味方するのは、躊躇する医師も少なくないのかもしれませんね。

また、収容中のご本人から証言を得るため、刑務所の中で尋問をしたりしました。

– 裁判官が刑務所に出張してくるわけですか。

そうです。刑務所の会議室を法廷のように見立て、机を並べ替えて、双方の代理人や裁判官が尋問するという手続きです。あんな体験は二度とないかもしれません。

反対に、うまくいかなくて悔しかった事例、そちらのほうが実際には多いんですが、たとえば、ある事件で国選弁護人をしたときに、その被告人の知的障害に気づくことができないまま判決まで至ってしまい、十分な支援に繋げられなかったということがあります。

– 犯罪の背景に知的障害があったということなのでしょうか。

おそらくそういうことだったんです。結局、その人も「こんぱす」で引き受けることになったのですが、その段階になってようやく、知的障害を抱えていることが分かったんです。

「こんぱす」のほうで最大限に支援はさせてもらったものの、十分な学び直しの機会を得るには至らず、彼は再犯に出てしまいました。執行猶予の言渡取消請求の裁判で、保護観察官が意見陳述をしたのですが、「私個人の意見でなく、あくまで保護観察所としての意見ですが」と前置きした上で、執行猶予取り消しが相当であると述べていました。本音は反対のところにあったのだと思います。結局、彼は刑務所に入ってしまいました。

– たとえ障害のせいで犯罪に心理的な歯止めが効かなかったとしても、なかなか世間では受け入れられないかもしれませんが、刑罰とは別のアプローチを取るべきだったのでしょうか。

そうですね。わかってやっている程度には達しているので、法律上は故意犯になるし、責任能力もあることになるのですが、弁護人として、知的障害のことを前提にした弁護活動ができたはずで、至らないところがあったという反省をしています。

貧困家庭を目の当たりにした、中華料理店のアルバイト

巨瀬 慧人 弁護士

– 巨瀬先生は、子どもの頃から正義感の強い人柄だったのでしょうか。曲がったことが嫌いといいますか。

いえ、そんなことはありません。むしろ、性格は曲がっていたかもしれません(笑) ただ、「人の役に立ちたい」という思いは強かったんだろうと思います。実は寂しがりなので、誰かの役に立つことが自分の幸せだと思っています。

– ミュージシャンを目指したのも、自己表現というよりは、人を幸せな気持ちにしたいという思いの表れだったのでしょうか。

そうですね、曲を聴いた人が、癒されたり励みになったりすればいいなと思って、頑張っていました。でも、自分の場合は、音楽を続けるより、法律を勉強したほうが、多くの人の役に立てるんじゃないかという実感を法科大学院で持てましたので、この道を選ぶことにしました。

離婚や親権などの問題でも、本当は様々な権利を主張できるのに、法律的な情報を知らないばかりに、「ダメだ」と諦めてしまっている人が多いんですよね。

大した落ち度がなく、離婚に応じる必要がないのに、相手から強く言われて応じてしまうような人もいます。

– 消費者問題や労働問題にも注力なさっているようですが、近ごろ注目なさっているトピックや変化などはありますか。

労働問題に関するご相談ですと、解雇無効を争うような裁判は多いですが、最近の実感として、「会社を辞めさせてもらえない」というトラブルも増えているように思います。職場環境が良くなくて、辞めたいんだけれども、辞職しようとしたら脅されたとか、辞めたら会社から損害賠償請求されたとか、そんなケースもあります。

– どういうふうな解決をするのでしょうか。

期間の定めのない労働契約であれば、通常、退職の意思表示をして2週間経ったら辞めることができます。まずはその旨の通知を会社に送ります。そういう会社の従業員は有休を取得できていないことが多いので、その2週間はなるべく有休を消化して、出勤しなくて済むようアドバイスします。

– その間に次の職場を探せますしね。

そうですね。最近は、職場における「ワークルール」について、高校や大学で講演する機会もあります。アルバイトをするときのため、就職したときのために、労働法のことを知ってもらうわけですね。

– 確かに、法学部生でもない限り、労働法などの職場のルールについて、大学ではほとんど教わりませんからね。知っているだけでも、自殺するまで追い込まれる場面は減るかもしれませんね。

おっしゃるとおりだと思います。