理不尽な目に遭う庶民の味方 集団訴訟にも緻密な視線で取り組む / 田篭 亮博 弁護士


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福岡地方裁判所小倉支部の正門からすぐ向かいにあるのが、創設から50年の歴史をもつ北九州第一法律事務所である。北九州でも随一の規模で、ひとつの家庭で巻き起こった離婚や相続の問題から、社会的に影響の大きな事業や被害に対する集団訴訟などを手がけ続けている。

所属弁護士の中でも、半世紀前のダム建設計画の差し止め訴訟から、身近なリスクである一般民事まで、広範な案件を手がける田篭 亮博先生に、今回はお話を伺った。

もともとは、数学が好きな少年だった

– 弁護士を目指そうと思われたきっかけは、どこにあったのでしょうか。

父が高校の物理教諭でして、もともと数学や科学に興味がある子どもでした。ただ、高校時代に進路を決める際、理系の進路は就職先が限られているように当時は思えたんです。

会社に入って研究をするとか、大学で学者の道へ行く、あるいは医者になる、父のように理科の教師になる、そういった道がありうるでしょうが、なりたいと思える職業がなかったんですね。

一方で、文系だと弁護士に限らず豊富な資格がありますし、自分の考えで仕事ができそうだと考えました。

– この時点では、いろんな資格があることが魅力的に思えて、文系へ進んだのですか。

もう、この時点で弁護士になりたいと決めていました。

– そうですか! 何が決め手だったのでしょうか。

学校から職業の一覧のような冊子が配られていたのですが、パラパラめくって、それを読んで決めました。

– その本の弁護士に関するページを読んで、ですか。その原稿を書いたライターはお手柄ですね(笑)

そうかもしれませんね(笑) 弁護士には、ひとりでも大きな力に立ち向かえるという、かっこいいイメージがありましたし、当時最も難しい国家試験といわれた司法試験に挑戦してみようという思いもあって、憧れました。

両親からは「公務員になれ」とやんわり言われていましたが、法学部の3年生の時点から、予備校に通って本気で弁護士を目指しました。

法律などの「場合分け」の考え方が好きで、自分で独自にフローチャートを作ってみたり、すべての原則と例外を網羅してみたりとか、そういった勉強もしていました。

– まさに、理系科目がお好きな方らしい、筋道の立て方ですよね。

勉強していると、法律って本当によくできているなと感動することもありました。それに、交通事故に遭った友人から「法律的にどうすればいいか」と相談を受けたこともありましたし、身近な人の手助けをできるようにもなりたいと考えました。

– 大きな力に立ち向かって戦えるのが、弁護士という職業に憧れたきっかけというお話でしたが、現在、その理想とした弁護士像には近づけているのでしょうか。

そうですね。この事務所に来てから、国を相手にした裁判もいくつか担当していますし、そういう意味では近づけていると思います。

半世紀前の計画が現代にも通用するのか ― 長崎県のダム建設

田篭 亮博 弁護士

– こちらの北九州第一法律事務所に来られてから、何年経ちましたか。

今年でちょうど10年になります。

– その約10年間で、いろんな意味で思い出に残っている案件などはあるでしょうか。

現在進行中の案件ですが、長崎県の川棚町、川棚川の支流で石木ダムというものの建設が計画されていまして、その事業認定取消し請求などの訴訟を担当しています。

もう50年ぐらい前の計画なんですが、県は公的費用で周辺住民の土地を買い取る強制収用の手続きに入っていて、いよいよダム建設を具体化させようとしているのです。ただ、ダムの建設目的には「利水(水不足対策)」と「治水(洪水対策)」がありまして、石木ダムは、そのどちらの目的においても不要というのが私たちの主張です。

– 具体的にはどういったご主張でしょうか。

利水に関しては、主に川の下流にある佐世保市にとっての水不足対策となります。ただ、佐世保市の人口が減少傾向にあるため、それに伴って利水の需要も減っています。なので、水は足りているんですよね。

ただ、石木ダムを造りたい長崎県によりますと、今まで右肩下がりできた佐世保市の水需要が、今後なぜか増えるという予測になっているんですね。

– ダムを造るために都合の良い予測ということですか。

そうですね。何年か経てば、その予測が外れているのがわかるんですが、再び将来予測を取ると、また右肩上がりになっているという(笑) その繰り返しなんですね。

治水に関しては、豪雨のときに川棚川が氾濫しないようにする目的ですから、流域の周辺自治体である川棚町のためダムですが、気象記録がある限りでは、過去の最も被害の大きかった豪雨が、仮に降ったとしても、河道整備が進んだためダムがなくても氾濫することなく流せるんです。

長崎県は、100年に1度の大雨に対応するためにダムを造ると言っていますが、100年に1度の雨といってもたとえば24時間かけて降るのか、それとも短時間にゲリラ豪雨のように降るかによって、氾濫するのかどうかは変わります。
これに関して長崎県は100年に1度の雨が降った場合のパターンを9パターン検討しているのですが、うち8パターンはダムがなくて大丈夫なんですね。ただ、残り1パターンで氾濫しうるから、ダムを建造する必要性があるという強引な説明の仕方をしているんです。残りの1パターンの予測すら、本当だろうかと疑問に思います。