トラブルの解決策を適切にデザインすれば、必ず和解できます。 / 倉持 麟太郎 弁護士


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渋谷の喧噪を離れた静かな住宅街の中に、まるで溶け込んでいるような自然さで、弁護士法人Nextの事務所が在る。
この渋谷で生まれ育ち、憲法の魅力に目覚めた法律実務家のひとりとして、ベンチャー企業の支援から、テレビ出演、国会における立法プロセスの関与まで、幅広い活躍をみせている倉持麟太郎先生にお話を伺った。

憲法は理念だけでなく、実践も伴わなければならない

– 倉持先生が弁護士になろうと思われたきっかけについて、お聞かせください。

組織の中でなく、自分の力、個の力で市民の助けになれる職業って何だろうと考えたとき、弁護士が選択肢に浮かびました。医師も倒れている患者さんをその場で助けたりできますが、文系科目のほうが得意でしたし、父の影響で子どもの頃からアメリカの法廷映画などをよく観ていたので、法律家になることは意識していました。

– 特に、憲法に興味をお持ちだったのでしょうか。

そうですね。高校生の頃から興味を持ち始めて、慶應義塾大学で駒村圭吾先生に出会って、人生が変わった、この方がいなかったら今の自分はない、といっても過言ではありません。

– それほどの第一人者の方なんですね。

駒村先生から、国内外の注目すべき憲法学者や思想家を教えてもらって、いろんな本を読みましたが、最も影響を受けたのが遠藤比呂通先生の『自由とは何か ― 法律学における自由論の系譜』という本です。

遠藤先生は27歳で若くして東北大学の助教授になったような方なんですが、学者をスパッと辞めたんです。その頃、日雇い労働者を対象に憲法の出張講座を行ったんですが、それを聞いていた観衆が「ふざけんな。俺たちにそんな権利なんかあるのか!」と、壇上に詰め寄ってきまして、遠藤先生はハッとしたらしいんですね。

憲法上の権利には実践も伴わなければならないと、大学を辞職後は数カ月間、実際に日雇い労働の現場で働いて、その後に弁護士登録をして、大阪の西成で活動なさっています。

– 学者のままでいては、できないことがあると思われたのかもしれませんね。

そうですね。『自由とは何か』は、遠藤先生が大学を辞める前にまとめられた論文集でして、あとがきに、「果てなく続く物語(ネバーエンディングストーリー)」が引用されているんです。要するに、憲法学者は「ファンタジーエン」にいて、憲法に書かれた権利をどう具体的に実現させるか、理想と現実の間にどう橋を架けるか、という考えが抜けているんだということなんです。

– 倉持先生にとって、憲法にそれほどのめり込む要素があったとしたら、どういった点だったのでしょうか。

「人間とは何か」「個人の自律とは」「自分らしく生きるとは何か」といった、哲学的で根源的な問いが含まれているところです。多様な価値観を持った人々が共生していくための枠組みが、憲法であり立憲主義で、個人がその人らしく生きるために、国家権力をどのようにグランドデザインしていくかが問われます。また、憲法は様々な社会問題とも直結するんです。

– そういった憲法の魅力、また遠藤先生のように、憲法理念の実践のため、学者から実務家に転身なさった方の存在から影響を受けて、倉持先生も弁護士を目指そうと思われたのですか。

そうですね。もっとも、受けている相談によっては、「ああ、今、憲法を実践してるわ~」とは思うわけではないですが(笑) でも、憲法を概念的に理解するだけでなく、それぐらい身近な話に下りていかないと実践に繋がりません。

また、常に「現場感」を持って、憲法の大きな話だけでなく、目の前のリアリティある事実と向き合い、交互に行き来しながら仕事をしていたいと心がけています。

法律家として、立法にも携わる

倉持 麟太郎 弁護士

– テレビ番組を中心に、マスメディアにも多く出演していらっしゃいますが、どのようなお考えでメディアに出ていらっしゃいますか。

そのときによって、最も世間に伝えるべき知見を発信し、世論を作っていかなければならない場面で、テレビは極めて有効な手段です。ただ、その目的の範囲内でしか出演しません。

また、法律の専門家、プロとして、信頼をしていただけることが重要ですが、国会での仕事等も、それを支えていると思います。

– 立法にも関わっていらっしゃるのですか。

立法といいますか、議員の質問を作成したり、出ている法案に反対するのであれば対案を作ったり、そのためのロビイングを実施したりしています。

– 弁護士として、相談や依頼を受ける場合、どのような業務が多いですか。

企業法務、それも労務管理に関するご相談を多くいただきます。「働き方改革」が叫ばれている中で、もはや、労働者側と使用者側は対立すべきではなく、対立を乗り越えた関係を築かなければなりません。

企業も従業員も、誰ひとり悪くない場合も多いのです。未来のあるベンチャー企業で、従業員は、みんなやり甲斐を持って働いている。でも、会社はあまり十分な給与を出せない。人も多く雇えない。だとすると従業員は残業せざるをえない。そうなると、労働基準法では長時間労働で規制の対象になりますが、ただちに従業員の不満が爆発することはなかったりします。しかし、だからといって放置していいわけではありません。やりがいや経営リソースや従業員の権利保護とのジレンマです。

つまり、法制度が全く現状の要請に追いついていないのです。立法のプロセスに携わっていたいのも、そのような現状に追いついていない法律を改善させる役割を担いたいからです。
このたび成立した、天皇陛下の退位特例法に関しても、立法プロセスに携わることができました。
本来の目的であった皇室典範の改正からは、だいぶ遠のきましたが、あの特例法は一代限りではなくその成立の経緯及び内容が将来にも先例になりうると菅官房長官が答弁しています。皇室のありかたという日本政治の肝ともいうべき憲政上極めて重要なマターに関する初めてかつ重大なな変更の局面に関われたのは、弁護士としても貴重な経験でした。