トラブルの解決策を適切にデザインすれば、必ず和解できます。 / 倉持 麟太郎 弁護士


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– 長くこじれているトラブルでも、それを解きほぐす勘所を探り当てるとともに、解決にふさわしい客観的な構成も検討していくというイメージでしょうか。

たとえば、あん摩マッサージ師に近いイメージかもしれません。「どこが痛いんですか」とお客さんに尋ねるのは、よくないあん摩屋さんです。そうでなくて、お客さんの身体を触って、どこが痛いのか、指先の感覚で気づく必要があります。ずっと触っていないとわからないんですよ。

弁護士も一緒で、現場を大切にして、生の事件にずっと触れていなければ、解決の勘所はわからないと思います。

会社労務は、個人の生き方にも直結する

倉持 麟太郎 弁護士

– ほかには、どういった分野に注力していらっしゃるのでしょうか。

ベンチャー企業の法的支援、スタートアップ支援には力を入れています。

– 渋谷はベンチャー企業が多い土地柄というイメージがありますが、渋谷に限らないわけですよね。

はい、ビジネスをしやすい環境を整える国家戦略特区(東京都・神奈川県全域と千葉県の一部地域など、全国各地の主要都市部)の一環で、都内各地の企業を支援していますし、また、仙台も特区になっていますので、仙台のベンチャー企業も支援しています。

ベンチャー支援に関しては、まさに予防法務の仕事です。普通の法律相談と違って、話が前向きなので楽しいですね(笑)

– 弁護士さんのベンチャー支援というのは、具体的にどういった業務を行うのでしょうか。

たとえば投資契約書等の資金調達関連、人事関連であれば、雇用契約書や就業規則を作成したりすることですね。サイト運営のような会社であれば、利用規約・プライバシーポリシー・特定商取引法に関する表示の3点セットなんかも多いですね。

– 専門家として、法務関連の書面の文案を作成するわけですね。

特にベンチャーは、既存の社会構造を変革させようとしていたり、業態のスキマに入り込むことに挑戦しているので、業務内容が新しく、多様化していて、一度話を聞いただけでは、何をしている会社なのか正確に理解できないこともあります。

契約書の形も、100人いれば100通りありうるわけです。それぞれの会社の業務内容に適合する書面を作成することも、クリエイティブであり楽しいと感じています。

– いわば、正解がない業務ですか。

正解はありませんね。企業の顧問というよりも、一緒にビジネスを進めているパートナーのような感覚です。

– こうした企業法務の中で、憲法の精神の実践を意識しているようなことはありますか。

たとえば人事労務、個人の働き方と組織との関係性、これらは従業員の生き方にも直結しますから、憲法との関わりでも大切です。

– 「ワーク・ライフ・バランス」ということがよく言われますが、ベンチャーで働く人たちの場合、短期間で一気に事業を軌道に乗せる必要もあるでしょうから、長時間労働になるのもある程度は仕方ないですよね。悠長に仕事をしていたら資金もショートするでしょうし。

そうなんです。皆さん、異常ともいえるような働き方をしていますね。

会社での働き方に、もっと多様性を

– もし、ベンチャーの職場にも杓子定規に労働法を当てはめるとしたら、果たして国家戦略の目的は果たせるのでしょうか。

その点はまさに、労働法が社会の実態に追いついていないからだといえます。「1日8時間、週40時間」という労働時間の基準があるおかげで助かっている従業員もたくさんいるのですが、法律上、その基準しか用意されてなければ、適用することがかえって逆効果になる職場もあります。労働法自体に、働き方のオプションがいくつか整備されていなければなりません。

– 今の労働法だと、有効期限が切れかけているなと思うところはあるでしょうか。

そうですね。労働法制の潜在的イメージは、炭鉱で働く人とか、年功序列の終身雇用を前提としている法体系ですから、やはり古いですよね。継ぎ足しではない抜本的な法改革が必要でしょう。

– どういったオプションがあるといいでしょうか。

やはり労働時間を柔軟に変えられるようにすべきでしょうね。裁量労働制もありますが、下手をするとタダ働きを助長しかねないので、働く人のためになりません。

また、「同一労働同一賃金の原則」を、どこまで原則通りに貫くべきなのかも課題です。同じ仕事内容で同じ労働時間であれば、雇用形態が正社員でも派遣やアルバイトでも、同額の給与を支払うべきだという立場ですが、実際にこの原則を守ってやっていける経営体力のある企業なんて、ほとんどないですよ。

低い待遇を上げて、高い水準に合わせるのでは現実的ではないので、高い待遇も下げて、中間にもっていかなければなりません。これは、労働条件の不利益変更なので法律上難しいというだけでなく、中高年社員の既得権益を削ることなので抵抗も激しいでしょう。

– 政策を決める立場の人々も、民間企業の職場の実情をなかなか把握できていないのかもしれませんね。

また、会社が従業員に転勤を命じ、転勤の可否自体が待遇に直結しているという実態も、実は、憲法上の居住移転の自由に関わる現代的な憲法問題です。憲法22条1項は居住移転の自由と職業選択の自由を定めています。日本では、たとえば「呉服橋」など、職業が入っている地名も多いように、両者は伝統的に表裏一体な関係にあったのです。転勤の問題は、この「居住」と「職業選択」の現代的な問題を提起しています。転勤の可否が賃金等の待遇に直結するのであれば、職業選択と転勤が表裏一体となっており、職業選択の帰結である就業先企業によって居住移転の自由が奪われています。住みたいところに住めなくなるのです。