立ち退きを請求する相手にも敬意を。不動産法務のスペシャリスト / 出口 裕規 弁護士


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都内や千葉県を中心的なフィールドとして、不動産や遺産相続の案件に力を入れているユウキ法律事務所は、東京大学本郷キャンパスのすぐ近くに軒を構えている。

「別に、東大出身ってわけじゃないんですよ」と豪快に笑う代表弁護士は、プライベートで空手の鍛錬にも励んでいるという。今回は、出口裕規先生にお話を伺った。

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– こちらの法律事務所は、不動産に関する案件にお強いとのことですね。

父が千葉で不動産の仕事をしていまして、子どもの頃から不動産が身近でした。父の事業も、一時期は羽振りも良かったんですが、バブルがはじけた際は大変でしたよ。

– そういえば、「チバリーヒルズ」と言われた高級住宅街もありましたね(笑)

そうなんですよ。千葉は、東京寄りだと「千葉都民」と言われたり、茨城寄りだと「ちばらき」なんて言われて、いじられやすいですね(笑)

– 弁護士を目指されたきっかけは何だったのですか。

最初は、警察官になろうと思ったんですよ。警察官僚ではなく、現場の警官です。大学のときに受験しまして、当時は年2回試験があったのですが、2回とも落ちてしまったんです。

– そうだったんですか。なぜ現場の警官になろうと思われたのでしょうか。

刑事ドラマや映画の影響もあって、憧れましたし、刑事訴訟法や警職法などを駆使しながら、犯罪を未然に防いだり検挙したりする仕事に、漠然と興味がありました。わたしの友人にも、警官が何人かいます。ただ、自分は2回落ちたので、「もういいや」と思ったんですね。

– そこから、弁護士を目指すということは、警察官とはまるで反対の立場になりますね。

ええ、正反対ですね(笑) 当時、千葉大では、司法試験合格者は皆無に近かったのですが、合格まで粘りました。現場が好きで弁護士を志望しましたが、今は刑事事件はやっていません。

– 不動産関連や相続の法律問題に注力していらっしゃるのですね。

ええ、得意ではあります。ですが、業界のルール上、専門と名乗るわけにはいきませんので(笑)

– 印象に残っている事件について、話をお聞かせください。

収用委員会の案件は印象に残っていますね。

収用委員会の典型的イメージは、例えば高速道路を通すなどの公的事業のために、土地の所有者に立ち退いてもらうための強制収用が行われる場合があります。弁護士もあまり関わらない手続きです。

地権者が立ち退きを拒否する場合、強制収用の権限を背景に、事業者が地権者との間で、土地の任意取得の交渉を行うわけです。

– 強制手続きの前に、まずは地権者自身の意思で売ってもらえないかと持ちかけるわけですね。

そうです。先ほどの典型例とは違いますが、私の担当したケースでは、土地区画整理事業で収用委員会での手続を利用することがありました。土地区画整理とは、土地の形状がよくないエリアについて、宅地の地型を整えたり、道路を拡幅するなどして地域住環境を再整備する事業をいいます。事業に際して、所有地が必ずしも適正とは言い難い評価額で処理されてしまう場合や一定期間土地が一切使用できなくなってしまう場合があります。そのとき、地権者が不服を申し立てる場として、各都道府県に収用委員会が設置されています。

– 具体的に、どういった点が印象に残っていますか。

私が担当した案件では、依頼会社が土地所有者であるにもかかわらず、区画整理事業の停滞により所有地を一定期間、全く使用できなくなってしまった一方で、土地所有者に課せられる固定資産税だけは負担を余儀なくされたことから、固定資産税分の数百万円の損害填補が認められたというものです。土地の利益は享受できないのに、かたっぽで土地の税金は負担させられるというのは不公平ですよね。そういったところを、千葉県収用委員会は問題視し、土地区画整理組合の関係者らに対し、面と向かって、おかしいとはっきりいってもらえました。

– 収用委員会とは、どういう雰囲気のところなんでしょうか。

千葉県の収用委員会は委員長の下、たしか7名前後の委員で構成されており、委員らの経歴は、元高裁判事、元高検検事長や財界の有力者等、それぞれの分野の一線で活躍した実績のある方たちで、重厚感がありました。委員の方たちの発言を聴いていると、含蓄ある言葉に溢れていましたよ。土地区画整理組合の関係者から、現行制度を盾にとって、支払いを渋る弁明発言が出た際、ある委員からは、所詮人が造ったものなんだから、なんとでもできるとか、大味な発言ですが、対応している私自身、エキサイティングな体験でした。本件のような問題が起きる背景には、バブル崩壊により地価が7割もさがったことで、組合の土地区画整理事業資金が不足し、事業全体の進捗が著しく停滞したことも全く無関係ではないと思います。本件では、数百万円の損害を填補してもらいましたが、地権者がアクションを起こして初めて収用委員会の裁決として認めてもらった結果で、なにもしなかったら、組合から損害填補の提案すらなされることもなかったでしょうからね。なんだか怖いと思いますよ。

– 裁判所に訴える前に、収用委員会に申し立てなければならないわけですか。

そうです。いわば「収用委員会前置主義」ですね。ただ、千葉県の場合は成田空港を造ったときに、収用をめぐって非常に揉めた歴史があります。委員会会長が過激派の襲撃を受けたこともあって、1988年から16年間にわたって委員会がストップしていたんですね。

それで千葉県内ではしばらく収用手続きを使えなかったんです。ですから強制収用を背景としない任意取得交渉だったため、各地で土地の立ち退き交渉が滞り、買収費用もかさみ、それもあって、たとえば北総線なんかは運賃が高いんですよ。

– たしかにビックリするぐらい高いですね。そういういきさつがあったんですか。

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出口 裕規 弁護士

– ほかに不動産関係の事件で印象に残っている事件はありますか。

特定の事件というわけではないですが、賃貸物件の退去手続きには特有の配慮が必要ですね。家賃を何か月も滞納している場合なら追い出されても仕方ないですが、判断が微妙で難しいのは、物件が老朽化して取り壊すために賃借人に立ち退きを求めるケースです。

賃借人にとって、物件に住み続ける利益は、生存のための基盤ですから、賃貸人から退去を求められるのは、非常にストレスフルな出来事で、それだけで体調を崩される方もいます。

なので、賃貸人の利益ばかりを主張し、法律を振りかざして、「立退料を払うから出て行け」の一点張りではダメで、バイタル面にも配慮することが大切です。特に高齢の方が賃借人の案件では、長年にわたってそこに住んできた方への敬意をもって対応することも大切です。

– それは見落としがちな視点かもしれません。立ち退いて引っ越すにしても、環境の変化でまたメンタルに不調を来すこともありえますね。

若い人ならまだフットワークが軽いし、新しい環境にも適応しやすいでしょうから、心配ごとは少ないのですが、お年を召した方の立ち退き案件では、特に配慮が必要です。