立ち退きを請求する相手にも敬意を。不動産法務のスペシャリスト / 出口 裕規 弁護士


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– 具体的に、どのように配慮するのでしょうか。

明渡しを求める側であれば、居住者の方に対し、攻撃的な文面の手紙を送ったり、攻撃的な物言いを終始ぶつけたり、当然に退去しなければならないといった強度の心理的プレッシャーをかけることは禁物です。長く住み続けてきた場所は、生活の本拠であって、高齢者にとってそこから出てってくれという要求がいかに精神面に負荷をかけるかということへ想像力を働かせなければなりません。精神的な不安を毎日抱えて住む、しかも住んでいる場所自体がまさに懸案の事件ですので、毎日そのことを考えざるを得なくなる。高齢の方にとってみたら、かなりしんどいはずですよ。私自身、賃借人側で対応していた案件ですが、お年召した方が、裁判途上、亡くなられてしまいました。辛かったですね。築50年は経過している木造長屋の借家で傾きかねないほど老朽化していましたが、相続人が地位を引き継ぎ、さいごはオーナーから数百万円の立退料を支払ってもらう内容で和解しました。

– 立退料としては、相当な高額ですね。それだけの補償を受けた以上は、賃借人は出て行かざるをえないのでしょうか。

そもそも、法的議論として、長年にわたって住み続けてきた高齢者の方に対しては、高額の立退料さえ積めば、当然に立ち退きを請求する「正当な理由」が認められるわけではありません。

賃貸人の側において当該物件を使用する必要性の程度、物件の老朽化の程度、相手方の年齢や健康状態だけでなく、世帯構成や居住年数、立ち退き後の新居確保の目処等、あらゆる事情を総合的に考えていかなければなりません。よって、立退料の額を調整することで契約解除の正当理由が補完されることもありますが、安易な対応は慎む必要があると思います。

– たとえ、立ち退き請求が法的に認められなかったとしても、賃借人は心情的に、それ以上その物件に住み続けるのは気まずいですよね。

ええ、容易ではありませんね。やはり精神的にしんどくなってしまう方が多いんです。賃借人の側の代理人として、立ち退き請求に対抗する立場を務めることもありますが、依頼者に対して「最後までがんばりましょう!」なんて、無責任な励ましの言葉はかけられないですよ。

ほかに印象に残っている事件といえば、ヤミ金融に関するものですね。

– どのような事件ですか。

社長がお金を借りたヤミ金業者に、小切手を振り出していたんですね。それも10~20本ぐらい振り出していたもので、合計3千~4千万円ぐらいの額面になっていました。
そのままにしていては、不渡りで倒産してしまうおそれがありますので、まずは、その小切手を回収しなければなりません。
その代理人として依頼されたのですが、正直に弁護士を名乗ってヤミ金業者と交渉しても、小切手を返してくれるわけがないので、社長からヤミ金業者に「返済するお金ができた」という連絡をしました。

すると、ヤミ金業者は、ちゃんと小切手を持参してやってくるものなのですね。「先に小切手を確認させてください」と述べて、業者から小切手を受け取りました。その場で小切手を無効にしまして、「じつは私は債務者から依頼を受けた弁護士です。違法な貸付けですので、お金をお返しすることはできません」と説明しました。

もちろん、一悶着ありまして、いろいろときつく言われるわけですが、そこはやりすごして、重ねて丁寧に説明をして、お引き取り願うと。これがまず第一段階です。

次に、とある方法を使って、ヤミ金業者が使っているメインの電話番号を聞き出しまして、そこから弁護士照会をかけて電話会社から契約者情報を知らせてもらい、業者の住所宛に「あなた方は違法な貸付けをしている」と内容証明で通告し、過払い金返還請求を行います。

ヤミ金ですから、すごい率の利息を取っていて、過払い金も蓄積されていて、約1000万円が返還されました。ヤミ金融相手に、ここまでうまくいく事例は珍しく、社長からも本当に感謝してもらえました。

– 倒産を覚悟していたでしょうからね。

ヤミ金に手を出して返済できないと、本当に催促の嵐で、対応していると本来業務が手に付かないわけです。

– 従業員にもバレて、「うちの会社、大丈夫かな」と不安にさせてしまうでしょうね。

中には精神的に極限まで追い込まれて、不幸にも首を吊ってしまう人もいるようですが、その社長は逆境を乗り越えて、今も元気に仕事をしていますよ。

顧問契約をしても、相談しなかった月は無料

出口 裕規 弁護士

– このユウキ法律事務所では、遺言書の作成や、不動産の明渡し請求の案件で、パッケージ料金を設定していらっしゃいますね。

わかりやすさが価値だと思っていますので、私が特に力を入れている案件に関しては、一般の方でもわかりやすい料金体系を用意しておこうと考えて、そのようなパッケージの形にしています。
特に、このあたりの湯島界隈では借地が多いですし、この不動産明渡しのパッケージを利用してくださる方が少なくありません。都内では土地の希少価値が高いので、不動産は売買での流通に加えて、賃貸借契約での利用が多くなりますからね。必然的に、借地権の資産価値も高まっていて、路線価図にあるように、借地権評価は更地の7割評価が一般的ですね。

– このパッケージ料金は、地代家賃の滞納による明渡しですね。

そうです。滞納での明渡しですと、弁護士が為すべきこともだいたい決まっていますので、料金体系も明確にしやすいです。

– また、顧問弁護士でも「利用しない月は料金0円」という設定も気になったのですが、どういう事情によるものですか。

これまでは、相談事があってもなくても、顧問弁護士に毎月決まった報酬を支払うパターンが通常でしたが、中小企業の社長さんにとっては、「何も相談していないのにお金を払うなんて、どういうことだろう」という素朴な感覚もあるでしょうし、コストも見合わないわけです。

弁護士の側からしても、「何も相談に答えていないのに、お金を頂くのは忍びない」という気持ちがあるんですよ。だったら、お互いにスッキリするために、「相談事がない月は料金を頂きません」と、初めから約束する顧問契約があってもいいのではないかと考えました。

– たしかに、そのほうが合理的ではありますよね。「月1回ぐらいは、顔を見せに相談に来てほしいな」という気持ちはありませんか。

何にもないとさみしいですので、顧問先には毎月、メールマガジンを送付していまして、今まで実際に担当した訴訟案件をもとに、どのようにすればトラブルを未然に防げるかをお伝えし、普段から意識を高めていただくようにしています。訴訟はトラブルの究極形ですからね。

– 顧問契約を通じても、企業法務に取り組んでいらっしゃるのですね。

そもそも企業法務とは何なのか、という話もあります。
企業も個人も、トラブルを抱えれば、訴訟になることもあれば、ならずに解決することもあります。企業も個人も、契約書チェックなど、法的リスクをあらかじめ把握し、回避するための予防法務は本来、必要となるものでしょう。

もし、企業に特有の法務があるとすれば、ランニングに関する法務、経営を継続していくための法務だと思うのです。労務管理の他、株主総会や決算など、毎年定期的に繰り返される企業法務イベントがあります。