国や大企業が相手の困難な事件は、どんどん相談してきてほしい。 / 河合 弘之 弁護士


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東京・帝国ホテルに隣接する高層ビルに入居する「さくら共同法律事務所」は、企業法務系の事務所として日本でも屈指の存在で、代表の河合弘之先生は、1980年代の超バブル景気のころに、世間を賑わす様々な難しい経済事件を担当し、成果を収めてきた。

一方で、現在の河合先生は脱原発訴訟や自然エネルギー推進運動にも携わっている。この類いの案件は、一般的な企業法務弁護士が避けそうなイメージがあるが、その裏にはどのような思いが秘められているのか伺った。

「日本の権力構造そのもの」を相手にした戦い

– 去る(2017年)7月21日に、伊方原発3号機の運転停止仮処分の申し立てが、松山地裁によって却下されたばかりです。河合先生は、お若い頃に、様々な難しい裁判に次々と勝訴して、名を馳せてこられました。

そうですね。僕の特徴は、企業系の弁護士なのにこうした原発訴訟に取り組んでいる点です。バブル景気の時代、経済界で大きなトラブルになった人はほとんど僕に相談してきて、そのころの有名な経済裁判は、ほとんど僕が手がけたといってもいいです。

– やはり原発訴訟というのは特有の難しさがあるのでしょうか。

原発訴訟の難しさといえば、要するに、「原発力ムラ」と呼ばれるもの全般を相手にして戦っているところですね。これは極めて厳しい戦いですよ。

僕が取り組んできたのは、企業対企業の訴訟が多いのです。これはしょせん、「民対民」の争いです。
「原子力ムラ」というのは、それよりも遥かに大きな存在で、日本の政治・経済・行政・文化・教育のうち、半分以上、6~7割が組みこまれていると言っていいです。さらに、そこへ同調・忖度している勢力を加えると、9割ぐらいは広い意味での「原子力ムラ」だといっていいと思います。

– 原発に対する直接・間接の支持だけでなく、明確な意思表示をせずに黙認している人々も含めれば、たしかに9割を超えるのかもしれません。

そうです。お金も人的組織もふんだんにある。あちら側の代理人は、国や電力会社から、巨額の報酬を取っている。それほど大きな利益共同体を相手にするのですから、一筋縄ではいきません。いわば、岩盤と戦うようなものですよ。本気で戦ってみて初めて、この国の社会構造が身体で分かりました。

– 河合先生のようなベテラン弁護士が、実際に原発を止めるための裁判に取り組んで、初めて気づくことがあるんですね。

日本の社会構造を、頭でなく体感したんです。それが僕にとって、原発訴訟に取り組んで受けた最大のメリットかもしれませんね。

– かつて、原子力は「夢のエネルギー」といわれてきました。わずかな燃料で莫大な発電量を生み出して、しかも大気汚染を出さないという。

それは完全に間違いだというわけです。事故を起こせば、地域社会は壊滅するし、事故をおこした原発を片付けることもできない。放射性廃棄物も処理方法が決まっていません。

原発と戦う覚悟を公に向けて鮮明に示しているので、大企業は僕に近寄ってきませんね。というよりも、僕はバブル時代に力を付け始めてきた中企業から依頼を受けて仕事をしてきて、その頃からもともと、エスタブリッシュメントである大企業から「危ない弁護士」「異色の弁護士」という評価をされてきました。

だけれども、おかげさまで事務所は流行ってまして、今では弁護士も30人以上いて、そこの長を務めています。その流れの一方で、脱原発のような社会貢献の仕事もしているという特徴があります。

– はい、その両方の流れを股に掛けていらっしゃる弁護士は、なかなか他にいないように思います。

企業系のほとんどの弁護士は、儲けを出す商売に徹してます。
今でこそ、「プロボノ活動」といって、弁護士が社会貢献的なボランティア活動をしていますけれども、僕に言わせれば、「権力には盾突かない範囲」の微温的なものです。
一方で、人権派・環境派の弁護士は、それだけに特化して、小さな市民事件で地味に飯を食って、その余力で社会貢献活動の仕事をしている。つまり、両派に分かれてしまっているわけですね。

– 両極端の弁護士が少なくない中で、河合先生は、その両派をまたいでいらっしゃるわけですね。

そうです。勘違いされがちなのですが、僕は経済事件が嫌になって脱原発の裁判に取り組んでいるわけではありません。

バブルは終わりましたが、経済事件もそれはそれで面白いので、今も扱っています。ただ、「それだけでいいんだろうか」と自問自答するようになったのが、今から20年以上前のことです。

「経済事件が嫌になった」わけではなく、「経済事件だけをやっているのが嫌になった」というほうが正しいです。

「正義のため」と「稼ぐため」、常に両刀を携える

– いわゆる経済事件と、脱原発のような社会貢献のための事件とでは、どこが違って、何が共通しているのでしょうか。

最もハッキリしている違いは、お金が儲かるかどうかですね。原発訴訟というのは、着手金も成功報酬もありません。勝っても一銭も入らないんですよ。経済事件とは正反対です。

ただ、この両者に共通点があるとすれば、「戦略」の重要性ですね。総花的ではなく、ピンポイントで攻めなければなりません。交渉の場で観察力を発揮して、敵の弱そうなところを見極め、徹底的に突いていくのが、大型経済事件と原発訴訟の共通点といえるでしょうね。

– 相手の巨大さに惑わされずに、弱点を見つけて突くことが大切なのでしょうか。

惑わされないというより、ひるまないことが重要です。

– 河合先生は、子どもの頃から、強い者にひるまずに立ち向かう性格だったのでしょうか。

自分で言うのも何だけど、正義感は強かったですね。

– ガキ大将という感じでしょうか。

ガキ大将ではなかったけど、常にリーダー的ではあったかもしれませんね。でも、弱い立場の人を助けたりしたのは、その頃ではなく、弁護士として社会に出てからですよね。