医療ミスに対する患者の誤解をなくし、医師の負担を減らしたい 医師としても働く法律家  / 平野 大輔 弁護士


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緑が生い茂り、花々が咲き広がり、東京都心の人々の心を癒す日比谷公園のすぐそばに、企業法務に強い小笠原六川国際総合法律事務所がある。その中でも医師免許も保有して活動を続ける平野大輔先生に、今回はお話を伺った。
国家資格のダブルライセンスの取得を果たした裏には、どのような思いが秘められているのだろうか。

医療ミスを争えば、構造的に患者が不利になる

– まず、医師を目指されたようですが、いつ頃からですか。

高校生の頃から、医療ミスの問題に関心を持っていました。父も医師なので、そのような話を直接聞いたり、医療ミス関連の本を読んだりしていました。

– 子どもの頃から、お父様の姿を見て、医師に憧れたり、意識したりしていたのでしょうか。

いえ、子どもの頃は、医師になろうとはまったく思っていなかったです。
高校生の頃、医療ミスの裁判で、患者側の敗訴率が高いということを知って、関心を持ち始めました。ある本には「敗訴率99%」なんて書いてありまして。

– そうなんですか?

かなり大げさに書いてあったと思いますが(笑)当時はその敗訴率の高さを信じていて、専門家である医師を相手に裁判をすることが、それほど大変なことなのかと、「これは問題だ」と感じていました。

ほかにも医療の密室性や、手助けする医師がなかなか見つからないことなど、患者側にとって不利となる要素はいろいろとあります。

– 別の医師が鑑定人などで協力してくれない問題ですね。

そういう現状があるのでしたら、私自身が医師になれば、医療ミス問題を少しでも改善に向かわせることができるのではないかと考えていました。

– この頃から、医師と弁護士の双方の資格を取得することを意識していらしたのですか。

そうですね。医療ミス問題に関わるのであれば、両方のライセンスが必要だろうとは考えていまして、まずは医師免許を取り、病院で働いていたところ、法科大学院制度がタイミング良く始まったので、弁護士資格も取得したのです。

– やはり、医師免許があったほうが、医療ミスを扱う弁護士としては有利に作用するでしょうか。

免許というより、医師としての5年間の臨床経験が今に役立っていると思います。医師や患者さんから相談を受けたときにも、すぐに要点を理解できます。

– 医師から弁護士に転身なさったという認識でよろしいでしょうか。

今でも、医師として病院の外来などでお手伝いさせてもらうこともあります。

– 現在も医療の現場で活動していらっしゃるのですね。そもそも、なぜ、医療には密室性が生じてしまうのでしょうか。

本来的に、医療には密室性が伴うものだと思います。患者さんのプライバシーもありますし、手術室は無菌状態にしておかなければなりませんので、部外者は入れません。2005年頃から、手術の様子をビデオ撮影する病院も増えてきていますが、その映像も基本的には患者さんやご家族には公開していないものです。外科手術になると衝撃的な映像だったりしますので。

– この映像が医療ミス裁判の証拠に使われたりするのですか。

それは無いでしょうね。手術の手技そのものに過失があったかどうかが争われることは、まずありません。手術の映像を見て、他の医師が意見書を書くという使われ方です。

医療ミスの裁判は、むしろ、例えば、患者さんがお亡くなりになったような場合に過去を振り返ってみたら、もっと早く病気を見つけることが可能で、早期発見できていれば命が助かったのではないか。治療が間違っていたのではないか。そういった診断上の見落としや、治療方針といった大きな事柄が争われます。

– 医療ミスというと、外科手術のことをイメージしてしまいましたが、主に診断ミス、治療ミスの争いが多いのでしょうか。

そうですね。診断や治療方針の誤りが争われることが多いです。

– 診断が誤っていたために、なすべき治療を行われずに症状が悪化したということですか。

はい、そういったことも多いです。
たとえば、脳に感染症が見つかったとして、それをウイルス性の感染症ということで治療を進めていたところ、後に細菌性であることが発覚した場合などは、それは医療ミスではないのかと争われる事があります。

医療ミスの訴えの大半は、患者の誤解である

平野 大輔 弁護士

– 今現在は、患者側の代理人に就くというよりも、病院側の弁護士として、医療ミスの対策に取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

はい。確かに高校生のころは、患者側の敗訴率が高いのなら、患者側に就くべきだろう、そういう弁護士になりたいと考えていましたが、その気持ちも医師になって徐々に変化していき、医療機関のために働きたいと考えるようになりました。

– なぜ変化していったのでしょうか。

医療過誤といわれるものの大半は、誤解から生じると思うのです。

– 誤解というのは、患者さんやそのご家族による誤解ですね。

そうです。医療ミスとされているものが、患者やご家族の誤解に基づく場合と、そうでなくて本当に医師のミスがあった場合とで、明確に分けなければなりません。

医師が人間である以上、医療ミスはどうしても起きてしまいます。それを減らすには画像診断などに人工知能を導入したりする必要も出てくるでしょう。新しい技術が導入されるときには、法律上の問題も生じます。人工知能を導入するにあたっても、故障などをして医療ミスが起きた場合の責任の所在問題などは、弁護士として関われる分野だと思います。

– 確かに、会社の健康診断などで大量のレントゲン読影をしなければならない医師が、集中力を切らして、ある社員の異常を見落とし、裁判になるようなケースもありますね。その場合はAIがレントゲン診断したほうが正確で早いのかもしれません。

ただ、AIは、異常を見つけることまではできるかもしれませんが、その異常がどんな病気を原因にして起きているのかを指摘するのは、放射線科の医師の仕事だと思います。それをどこまでAIが取って代われるかどうかはわからないですね。