弁護士は、あらゆる悩みを受け止める職業です。 / 安田 まり子 弁護士

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新大久保の周辺が「韓流」の雰囲気に包まれる前から、新宿区百人町に事務所を構え、おもに家事事件や女性の権利問題をめぐる事件に注力する安田 まり子 先生(安田まり子法律会計事務所代表)にお話を伺った。
あらゆる変化を柔軟に受け入れ、しなやかな強靱さを伴う雰囲気をお持ちの弁護士である。この日、初めてお目にかかったにもかかわらず、いつの間にか初対面であることをすっかり忘れてしまった。

父の思いか刑事ドラマの影響か-法律家への道

安田 まり子 弁護士

– このインタビューの場には、同じ事務所にお勤めの土田清子先生が一緒にいらっしゃいますが、安田まり子先生に対するイメージについて率直に教えてください。ご本人の前で話しづらいかもしれませんが。

土田清子先生

「初めてお目にかかったとき、とても柔らかい雰囲気の方だなと思いました。優しいけれど、言うべきところはビシッと言うようなところがかっこいいと。決して大きな声を出すわけではないんですけどね。

日弁連の委員会でも、全体の流れを作っていけるところが尊敬できて、素晴らしいと思います。」

– 有難うございます。安田先生は、弁護士に加えて税理士の資格もお持ちなのですね。

(安田まり子先生 以下同じ)

弁護士の資格を取ると、国税庁に通知するだけで業務を行える「通知税理士」という制度があります。ですが、私は税理士会に正式に登録をしました。父が税理士事務所を経営していて、いずれ父の業務も引き継ぐことを考えてのことでしたが、父は85才を過ぎた今でも現役です。

– たとえば、相続に関するトラブルがあって、しかも相続税の申告も必要という場合には、こちらの安田まり子法律会計事務所で、ワンストップで扱っていただけるということですね。

はい、そういうことになります。

– 弁護士を目指したきっかけについて教えていただけますか。

それが、私の場合は、はっきりした記憶はないのですが、小学校の頃から「弁護士になる」ということを周囲に言っていたらしいのです。

父は税務署の職員だったのですが、法律の勉強をしたくて、働きながら大学を受験して、法学部の夜間部に入学したものの、身体を壊してしまい、心ならずも法律学科から政治学科に転科した、という話を聞いていたので、子ども心に法律というものがよほど素晴らしいものに思えたのか……。

あるいは、刑事ドラマの影響かもしれません。子どもの頃から刑事ドラマが好きで、私服刑事に憧れていたんですね(笑)

– (笑)私服限定なんですか。

制服警官に混じって、私服の刑事が活躍するのがカッコよく見えたんだと思います。でも、誰かに「女性は私服刑事にはなれない」と言われて。今では、刑事ドラマでも女性刑事があたりまえのように活躍していますけれども、当時は警察も男性社会だったんでしょうね。それで、刑事の他に、女性でも刑事事件に関われる職業としては、弁護士しか思いつかなかったんです。

私が通っていた中学校、高校は、英語教育に力を入れている学校でしたので、英語学科などに進学する人が多かったのですが、幸い、私は英語が苦手だったので、その道に進むことを考える必要がなかった、ということで、自分の中では自然な流れで法学部に進学することになりました。

他にも、女性が一人で生きて行くには資格を取るしかない、と思っていたこともあります。

でも、弁護士になったきっかけを尋ねられたときは、いつも、「女性は私服刑事になれなかったから」と答えることにしています。(笑)

– 法律は難しいというイメージが先行しがちですが、その点はどうでしたか。

いえ、英語に比べたら、全然難しいとは思いませんでした(笑)
中学・高校と通っていたのがキリスト教系の学校だったので、「神の下では、みな平等である」とか「一人ひとりが神に愛され、尊重される」と教えられてきました。私はクリスチャンではないので「神」の部分に重きを置かずに、平等とか個人の尊厳とかの考え方が、自然に身についていたのかもしれません。

憲法の大原則は、法の下の平等と個人の尊厳ですから。

– その点で、すんなりと受け入れられたのですね。

基本的な考え方に違和感がなかったので、その意味で、法律学をそんなに難しいとは思わなかったのかもしれません。

3年間の海外生活、その後も様々な変化が迫る

安田 まり子 弁護士

– そして、1985年に弁護士登録をなさったわけですね。

そのときは、渉外や企業法務を扱う法律事務所に入りました。
女性の就職は大変と聞いていたので、積極的に就職活動したというより、募集があった事務所に応募して、早々に決めました。

– 渉外事務所というと、企業の契約書のチェックなどをするのでしょうから、この事務所のイメージとは異なりますね。

そうなんです。英語も苦手ですし、渉外事件を担当したい同僚はたくさんいましたので、私は保険関係や債権回収などの案件を主に担当していました。それが、結果的には、今の仕事にも役立っています。債務整理の仕事をする場合、取り立てる側の事情もある程度分かりますし(笑)

– いったん、弁護士業務を休業なさったことがあるのですね。

主人がタイに赴任することになったので、最初の駐在には同行したいと思いまして、マレーシアとの国境近くにあるハジャイという街に3年ぐらい住んでいました。
そこでタイ語を学んだり、ゆったりした生活を満喫しました。

– ハジャイはどのような街でしたか。

タイの中では、バンコク・チェンマイに次ぐ第3の都市といわれています。芸術や工芸で知られるチェンマイとは違い、ハジャイは商業都市です。

ただ、タイではバンコクの規模が断トツですので、第3の都市といってもかなり小規模です。ハジャイには日本人はほとんどいなかったですし。

– そのハジャイに3年滞在して、日本に戻られたのですね。

日本に戻ってすぐに、父の会計事務所のフロアを借りて、安田まり子法律会計事務所を開設して、弁護士業務を再開しました。また、それと同時に税理士会で税理士登録もしました。最初の内は、弁護士の方の仕事はあまりありませんでしたので、父の会計事務所の仕事も手伝っていました。

ですが、弁護士会や法律扶助協会(当時)で、法律相談の担当を始めたところ、債務整理の専門相談に非常に多くの相談者が訪れるようになった時期と重なり、私も、破産や任意整理の案件が増えていきました。

また、タイ語が少し判るということで、人身売買の被害者だったタイ人女性たちが、働かされていたスナックのママを殺した事件の弁護団にも誘われて、参加しました。

そのころ、脳梗塞で倒れて入院し、10カ月近く休業していました。まだ仕事量はそれほど多くありませんでしたが、友人の弁護士が書類などをチェックして、対応してくれました。左の片麻痺の後遺症は残りましたが、幸い、車椅子生活になることなく、業務を続けることができて、本当に有り難いことだと感じました。

– いろいろな出来事が良い方向に進んでいくのは、先生の物の捉え方も作用しているかもしれませんね。

先ほどお話ししたタイ人の刑事事件に関わった縁で、日本キリスト教婦人矯風会が運営しているシェルター(女性やその子供を保護する施設)に保護されている人たちからの、離婚や親子関係、債務整理など、さまざまな相談を受けることが多くなりました。

最初に依頼を受けたのは、フィリピン女性の離婚の事件で、日本人の夫から暴力を受けて逃げだし、施設で保護されていました。女性は、小柄でおとなしそうな感じの女性でした。調停では、離婚には同意してもらえず、裁判では、家を出るときに、子どもを連れて行けなかったこともあって、夫は親権も争ってきました。裁判では、離婚と子どもたちの親権者を母とすることが認められ、女性は子ども達と一緒に、新たな生活を始めました。それから数年後、新しい恋人と颯爽と事務所に現れた女性は、まるで別人のように、顔つきも、所作も活き活きとしていて、その変化に目を見張りました。スラッとしていて、身長まで伸びたように感じられました。

それからは、離婚や親子関係の家事事件に関わることが、多くなっていったんです。

成年後見制度ができ(2000年4月施行)、この「法律会計事務所」という名前が影響したのか、裁判所からの成年後見人や保佐人への就任を多く依頼されるようになりました。認知症や精神障害がある方の財産管理や身上監護を行う仕事です。

具体的には、財産管理では、預貯金の管理以外にも遺産分割の手続やお持ちの不動産、アパート経営をされていた方などの場合には、その経営も引き継ぎます。身上監護としては、施設への入所や介護サービスの契約などを行います。推定相続人、たとえば、お子様たちの身上監護についての考え方の違いを調整するのも大きな仕事です。

– 離婚や成年後見など、家事事件に接することが多いかと思いますが、どのようなことに気をつけていらっしゃいますか。

皆さん、これからの人生を左右する問題で事務所に相談に来られる方が多いので、その方が納得できるような解決を心がけています。配偶者暴力、いわゆるDV被害者からの相談も多いのですが、殴る蹴るだけでなく、言葉の暴力などで、精神的な支配を受けてきた女性も多いです。

– モラルハラスメントですか。

そういう依頼者に寄り添って、親身になって解決していくことが重要だと思います。事件が一段落して、新しい生活に向かって一歩踏み出していけるような解決ができればいいと思っています。
先ほど、フィリピン女性の変貌ぶりをご紹介しましたが、ほとんどの女性が、事件が解決に向かっていくにつれて、本来の明るさを取り戻していってくれます。何年か経って、別の案件を紹介しようと友達に付き添って来てくれることもあるんですが、本来の彼女はこういう人だったんだと驚かされることもあります。

– それがこの仕事のやり甲斐でもあるわけですね。

そうですね。成年後見の案件では、おばあちゃまや、おじいちゃまの人生を肌で感じることが出来るというのも醍醐味の一つです。離婚事件も、その方の半生をお聞きすることも多いので、同じことが言えると思います。

仕事への向き合い方を楽にしてくれた呼吸法

安田 まり子 弁護士

– ご趣味は何でしょうか。

主人の影響もあるんですが、クラシック音楽やオペラの鑑賞、そして絵画の鑑賞ですね。

それから呼吸法です。20年ぐらい習っているのですが、身体が緩むので、体調も良くなってリフレッシュできます。

日弁連や弁護士会の委員会活動に携わってきましたが、私は人前で話すのが苦手で、そういう場では無口だったのですが、呼吸法に通うようになってから、次第にそういう苦手意識のようなものがなくなってきました。今では、感じたことは発言しないではいられないようになりました。単に年の功かもしれませんけども(笑)

– 流れに逆らわない自然体でいらっしゃることで、いろいろと仕事が思い通りに進んでいるように思えます。不思議な力で(笑)

そうですね(笑)
脳梗塞で少し身体が不自由になりましたが、おかげさまで依頼も増えて、勤務弁護士を雇えるようにもなりました(笑)

ひとりで仕事をするのと、全然違いますからね。

– どういったところが違いますか。

気持ちが楽ですよね。何でも二人で相談できるし、苦手なことを任せられるし。

もともと私は、文献や過去の判例を調べたりするのを面倒だと思ってしまう傾向があって、自分の意見で書いちゃうところがあったので(笑)
そういう調べ物などを任せられるのは助かります。

– 今、特に力を入れている問題は何でしょうか。委員会では人権問題について取り組んでいらっしゃるんですか。

日弁連と第一東京弁護士会の両方で人権関係の委員会に属しています。日弁連では、人権擁護委員会では社会保障などの問題を扱う部会、両性の平等に関する委員会ではDVなど家族関係の問題を扱う部会の委員として、活動しています。

以前から、女性の人権問題や男女平等、女性福祉の問題に興味があり、その分野に力を入れて活動しています。

また、あまり一般に知られていない、売春防止法に定められた婦人保護という制度があるのですが、今では、DVやストーカーの被害者なども、婦人保護制度の下で設置された施設(シェルター)で保護されています。福祉制度なのに根拠法が売春防止法のままで、法律と実務がかい離しているのです。売春防止法には、女性の人権へ配慮する規定もないことから、法律を改正して女性支援法を制定しようという動きがあり、私も制度の改善に向けて、微力を尽くしたいと思っています。

弁護士は、どんな相談でも受け止めてくれる

– 弁護士を始められた頃と今とを比較して、女性の人権を取り巻く状況に変化はありますか。

女性の人権状況は、徐々によくなってきているとは思います。弁護士も、私が弁護士になった頃は、女性は全体の1割に満たなかったのが、今は2割に近づいています。DV防止法もできて、女性に対する暴力についての世間の認識も広がっています。

ただ、逆の動きもあります。DV防止法の制定後、モラルハラスメントという言葉が一般化し、身体的な暴力だけでなく、精神的な暴力も暴力として許されないという認識が広がっていきました。ところが、近ごろではモラハラではなかなか慰謝料までは認められなかったり、離婚原因として裁判所に認めてもらうのに苦労するという傾向にあります。

また、女性の労働者は増えましたが、非正規労働の割合が増え、単身女性や母子家庭の貧困といった問題も深刻さを増していて、全体としては向上しているとはいえますが、まだまだ男女平等というにはほど遠い状況にあります。

– 安田先生にとって、弁護士に欠かせない要素とは何でしょうか。

自分のことでいえば、ひとつひとつの事件に真剣に取り組むということです。当たり前なのかもしれませんが、実際はなかなかできなくて、多忙で少しでも手を抜くということがあると、依頼者には見抜かれてしまいます。

– 油断できないですね。

そうなんですね。弁護士がいくら忙しくても、依頼者の方は、人生を左右する問題で相談に来ているわけですから、真剣です。特に最初は、ゆっくりと話を聞いて、事件の詳しい内容をできるだけつかんでおくことと、裁判の書面などで、ここぞというときには、渾身の1通を作成できるよう、スケジュールを上手に調整することに気をつけています。

– 法律的なトラブルに巻き込まれているけれども、法律事務所に相談に行くのを躊躇している方々に、何かお伝えしたいことはありますか。

迷っているなら相談に来ていただきたいと思います。離婚を考えている女性で、夫から人格を否定され続けて自信を失い、弁護士にも自分の言い分を否定されるのではないかと心配している方もいますが、そのような心配はいりません。

弁護士は、恥ずかしい話を隠し立てしなければならない相手では全くありません。どんなことでも受け止めて、一緒に解決していくのが仕事ですから、困ったら弁護士に相談してみて下さい。

また、収入や資産が乏しい方には、法テラスという組織が弁護士費用を立て替えてくれる制度もありますので、弁護士に対するアクセスは、以前に比べれば格段に向上しています。


周囲の動きを受け入れ、しなやかに流れに合わせるだけでなく、決してぶれない芯の強さを併せ持っていらっしゃる安田先生。
人生の大きな障壁に追い詰められた女性たちから厚い信頼を集めている秘密の一端が、1時間足らずのインタビューで垣間見ることができた。

安田まり子法律会計事務所

安田 まり子 弁護士
安田まり子法律会計事務所

1977年 女子学院高等学校卒業
1981年 早稲田大学法学部卒業
1985年 弁護士登録
1991年 安田まり子法律会計事務所開設
1992年 税理士登録

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