検事の手の内を読み、逮捕されても刑事裁判に持ち込ませない。 / 市川 寛 弁護士


このエントリーをはてなブックマークに追加

今回は、検事から弁護士に転身し、刑事弁護や犯罪被害者保護を中心に、10年に及ぶ在野法曹としてのキャリアを積んでいらっしゃる、『検事失格』(毎日新聞社・新潮文庫)著者、市川 寛 先生(華鼎国際法律事務所)にお話を伺った。
組織人である検察官の手の内や苦悩を知り尽くす立場から、密室からの被疑者釈放を目指す、リアリティに根ざした戦い方とは?

いったん起訴したら絶対に引かない、検事との戦い

– ギターを始められたのは、いつ頃ですか。

高校の頃からです。我流ですね。それで、自分で曲を作るようになったんですよ。

– 作曲もなさるんですね。どんなミュージシャンに影響を受けたのですか。

ビートルズやローリング・ストーンズですね。高校3年から大学2年頃までは宅録で曲を収録していましたよ。当時はカセットテープですね。一時期は機材にもだいぶ凝りました。

– バンドを組んで活動していたわけではないのですか。

市川 寛 弁護士

バンドを組んだのは検事になってからなんですよ。先輩や後輩の検事、それと知り合いの弁護士ともやりました。

– 検事と弁護士がですか。

今はバンドはやめています。ひとりでギターを弾いているという意味では音楽活動を続けていますが、機会があれば、またバンドをやりたいですね。

– 弁護士になられてどれぐらいになりますか。

2007年登録なので、今年で10年目ですか。自分でこう言って「早いな」と実感しますが、刑事事件を中心にやっています。

刑事弁護と、犯罪被害者側の告訴や告発の代理人をやったり、または検察や刑事司法関係の講演の場にも呼ばれて話をしています。検察の内部事情を詳細に話すものですから、弁護士会からはそれなりに価値を見いだしてもらっているようです。

また、外国メディアからの取材依頼が増えました。イギリスのBBCやアルジャジーラからも取材を受けています。


– 日本ならではの刑事司法の問題点について取材を受けたということでしょうか。

そうですね。日本の冤罪は、どう考えても無理のある取調べが原因で、それを世界に言いふらしているのは僕くらいですから。

– 市川先生は、元検察官の弁護士、いわゆる「ヤメ検」の一般的なイメージとは異なりますね。

そうかもしれませんね。決して円満な形で検察を辞めたわけではなくて、「ヤメサセラレ検」ですからね(笑) クビになってはいないですが、事実上、辞めさせられたに等しいですから。こんなことを記事で書いてもらって、今のお客さんにどう思われるかわからないですが。

– そのあたりの経緯について、詳しくは御著書の『検察失格』(毎日新聞社・新潮文庫)にお書きですが、このインタビューでは弁護士として仕事を始められた後のことについてお尋ねします。

どちらかというと、起訴前弁護に力を注いでいます。

刑事弁護を一所懸命やっていらっしゃる方には失礼な言い方になるかもしれませんが、裁判で無罪を勝ち取るのは並大抵のことではありません。

たとえ冤罪であっても無罪にはなかなかならない。それに比べれば、不起訴処分を取る方がずっとその可能性があるんです。

– 確かに、起訴されれば99%以上が有罪とされているのが日本の刑事裁判です。罪を認めていない否認事件のみに絞っても、起訴されれば97%以上有罪になるという統計があります。

検事をやっていたからわかるんですが、検察はいったん起訴したら絶対に引かない。でも、起訴の前だったら、組織としての抵抗の度合いが比較的低いんですよ。

今、立場が変わった以上、できるだけ早いうちに手を打った方がいいとわかるんです。その点ではそれなりに結果を出してきました。

検事時代から刑事弁護人のような発想を併せ持ってきた

市川 寛 弁護士

– 時間をかけて正式に無罪判決を勝ち取りに行くのもいいのですが、裁判にならない段階で釈放された方が、仕事でもプライベートでも日常への復帰を早めやすく、現実的なメリットが大きそうです。

あるいは、いかにして被疑者を逮捕させないで進めていけるか、これも重要なんですよね。

– たしかにそうですね。起訴だけでなく逮捕をも回避できれば、それに越したことはありません。

逮捕して身柄を確保した後は、検察が意地になる度合いも変わってきます。

もちろん事件にもよりますよ。殺人の嫌疑がかかった人が逮捕されないなんてことはほぼありえない。ただ、そこまでの重大事件でなければ、在宅の段階で検察に諦めさせる方法もあるにはあるので。

逮捕されていない段階では、被疑者とされた依頼者とコミュニケーションをとる自由度が高いのですが、逮捕されてしまうと、弁護人が接見に行かなければならない負担が生じます。

これを「負担」と表現してはいけないのかもしれませんし、もちろん被疑者の方が心理的にきついと思いますが。

– 接見には時間的・場所的な制限もありますからね。他のヤメ検と言われる弁護士さんも、もちろん検察での捜査経験があるのでしょうが、市川先生はそれと違う強みのようなものはお持ちでしょうか。

難しい言い方になりますが、検察にいたときから、組織に従うべきところは従っていた一方で、批判されるべきところは批判的に見ていたところが、もしかすると自分の強みなのかもしれません。
組織に染まりきれなかったと言いますか、検事をやっていた当時から、刑事弁護人のような考え方を持っていたからかもしれません。

上司から「自白させろ」と命令されても「自白をさせてどうなるんだ」という思いがありました。まして、取調べで言ってもいないことを調書にとるというのは異常ですからね。