逮捕されたら思い出したい、渋谷の「刑事専門」法律事務所 / 二宮 英人 弁護士

このエントリーをはてなブックマークに追加

若者の街、渋谷の宮益坂をのぼり、路地へ入ったところに、「刑事事件・少年事件専門」を掲げる事務所がある。

弁護士が刑事事件を専門にするのは経営的に難しいといわれているが、どのように実現させているのか。弁護士法人渋谷青山刑事法律事務所の代表 二宮 英人 先生にお話を伺った。

逮捕の段階で、どれだけ深い話を聞けるかが勝負

– 刑事弁護人にとって重要なこと、これは欠かせないという要素は何だと思われますか。

元気なことですね。

刑事事件は、事務所で書類を作るという仕事だけではなく、いろんな場所へ行かなければなりません。
弁護士が「今日は、風邪ひいたから無理です」というのは、民事でもマズいですが、刑事ではもっとあってはならないことです。いつ、何が起こるかわかりませんので、常に動ける状態にしておかなければなりません。

– 元気を維持するために、心がけていることはありますか。

そうですね、よく寝ることです。

– 睡眠は、確かに大事ですよね。

ときには忙しくなることはありますが、ある程度の計画を立てていれば、徹夜をしなければならない状況には追い込まれないはずです。
真夜中に、今すぐ警察署に駆けつけて対応しなきゃならない場面もあるので、寝られるときに寝ておくのは重要ですね。

– そのほかに、大切にしていらっしゃることはありますか。

罪を犯してしまった被告人や少年らが、立ち直っていくのに力添えをしたいという情熱です。

– これまでで、何か思い出に残っている刑事事件はありますか。

少年事件でいえば、成人事件での無罪判決に当たる「非行事実無し」を獲得できたことは思い出深いですね。

男子大学生だったんですが、サークル合宿での飲み会の後に、女の子の身体に触れるなどのわいせつな行為をしたということで、逮捕されたという事件です。ただ、逮捕の時点で飲み会から半年も経過していました。

少年から話を聞いてみると、女の子の身体に触れたのは事実だけども、その相手からの同意があったというんです。
よくある話なんですが、刑事事件では,「やったけれども、相手の同意があった」というのは、なかなか通らない話なんです。

だから、取調べで警察官や検察官から何を言われても、決して,同意がなかったという風に持って行かれないように,罪を認めないようにと彼に注意しました。

その一方で、弁護士としては,同意があったことを裏付ける証拠を探さなくてはいけません。サークル合宿だから目撃者がいるんじゃないかと思い、もう一度少年に確認したら、たしかに「自分たちを見ていた人がいる」というんですね。

それでサークルのメンバーに連絡を取って、調べてみたら、「ただ男女が仲良くしていただけ」という仲間からの証言が続々と取れていったんです。

これで、同意があったことを証明できたので、少年審判にかける必要はないはずなんですが、相手が女性検事で「こんなものは信じられない。被害者がそう言ってるんだから」の一点張りで、結局は事件が家庭裁判所へ送られたんです。

幸い、裁判官には理解があって、女の子の同意があったという認定ではないのですが、少年の立場からすれば、同意があったと思ってもおかしくない状況だったという認定をしてもらいました。

とはいえ、反省点もありました。最初の段階で「触ったけれども、同意があった」という話だけを聞いて、「無理そうだな」という先入観をもってしまったからです。そこで、さらに少年に対して深い話を聞くことができれば、もっと早い段階で、目撃証言の収集に動くことができたと思っています。

– 期間としては、どれくらいかかったんですか。

その少年は、結果として2カ月近く、警察署と鑑別所で身柄拘束されていました。

早く釈放されたくて、冤罪を認めてしまった事例

二宮 英人 弁護士

– でも、二宮先生の働きのおかげで助かってよかったですね。今までで「これは難しかったな」と思う裁判はありますか。

似たようなケースですけれども、成人の刑事事件で、強姦の容疑がかかっていて、しかも、本人は認めていたというものです。

ただ、起訴直後に,家族だけには「じつは、やっていない」と話していたらしいんですね。
当時、その女性と揉め事があって、たぶん恨みを買って、強姦のぬれぎぬを着せられたらしいということがわかったんです。

しかも、彼は、過去に痴漢冤罪に遭ったことがあり、やっていなくても罪を早く認めた結果、早期に釈放されたことがあるらしいんです。それで今回も、同じことをやったんですね。

– 冤罪でも罪を認めれば、早く釈放されるのは事実かもしれませんけどね……。

ただ、事件が事件ですからね。強姦という重罪ですから、一度認めたものを「本当はやっていません」と、発言をひるがえすのは、裁判官に対する心証が悪くなります。

結果、彼には実刑判決が出て、刑務所へ行くことになってしまいました。

この件も、私に反省点があります。今にして思えば、強姦のような重罪で逮捕されたのに、まるで私たちにアピールするかのように「やりました、すみません」と認めているんです。その段階で「おかしいな」と気づくべきだったんです。

性犯罪で捕まった人は、居たたまれないような態度をとっていたり、「そんなにひどいことはやっていない」「相手もOKしていた」と、多少は反論したくなるものですが、彼にはそれがなかったので、その異常に早く気づいて対策を取っていれば、刑務所に入らずに済んだのではないかと悔やまれます。

– 刑事弁護人として活動をなさっていて、犯罪被害者の方に対しては、どのように対応していらっしゃいますか。

そうですね。被告人と被害者とが直接対立して関係性がこじれないよう、その間に弁護人が入ることによって、被害者の方にとっても、精神的なストレスが緩和されるよう、配慮しながら働きかけをしていきます。

ディベートの面白さに気づいた小学生時代

二宮 英人 弁護士

– 弁護士を目指そうと思われたきっかけについて教えてください。

小学校のころは、野球やサッカーなどのスポーツが好きで、周りのみんなは「野球選手になりたい」「サッカー選手になりたい」って言っていたんですが、自分だけは「この体格じゃ、プロは無理だろ」と思っていたんですね(笑)

– おお、早くも客観視できていたんですね。

手塚治虫の『ブラックジャック』を読んで、外科医にも憧れたんですが、「手先が不器用だから、無理だろ」と思ったりとか、ある意味で、ませていたのかもしれません。

そして、うちの小学校はディベートの授業があったんです。一般的な公立の小学校だったんですが、たまたま担任の先生がディベート好きだったこともあり、子どもたちによくやらせていたんです。

そのときに、「ディベートって面白い」と思ったんです。自分と違う立場や意見を持っている人を言葉で説得していくことが、面白いし得意だなと思うようになって、小学校の高学年のころから、弁護士などの法律関係の職業に、将来なってみたいと思うようになりました。

– 検察官役と弁護士役に分かれたりとか、そういうディベートもあったのですか。

それもありました。模擬裁判のようなこともやったりして、自分の得意なことを活かす道もあるんじゃないかと思うようになったんです。

– 「自分がやりたいこと」よりも「自分に向いていること」を考えている点で、子どもながらに冷静ですよね。

そうですね。「何がしっくり来るのか」を考えていたのかもしれません。

– 中学から進学校に進んでいらっしゃいますが、部活は何かやってらっしゃいましたか。

サッカーやラグビーをやっていました。

– けっこう体育会系なんですね!

ただ、体格があまりよくないので、サッカー部では、顧問の先生があまり評価してくれなかったんです。しかも、当時のキャプテンと私は仲が悪くて、キャプテンが私の悪い噂を顧問に流したりしたんですよ。

– ひどい(笑)

だからサッカー部の練習はいつも、ふてくされながらやっていました(笑)

そんなときに、ラグビー部から誘いがあったんですね。だから、サッカー部の練習を抜けて、こっそりラグビー部の練習に参加し、その日のうちにラグビー部に入っていたという。

– そんなことあるんですね。

ラグビー部ではスクラムハーフを任されたんですが、小柄な選手に有利なポジションでもあって、今度は逆に顧問の先生から絶賛されたんですね。チームの中でMVPをいつももらったりとか、明らかに調子が良くないときも「今日はよかったよ」と褒めてくれたりしました。

– ラグビー部で居場所が見つかった感じですか。

でも、ラグビーは激しいスポーツですし、身体を壊してしまうかもしれないと思って辞めまして、今度は、自分たちで水泳部を作ることにしました。

学校にプールはあるのに、水泳部がなかったんです。しかも、水泳の大会に出られるレベルの真面目な後輩がいて、プールで自主練したりしていたので、「水泳部作るから、入りなよ」と誘ったんです。

彼だけが真面目に練習して、自分も含めて他の部員は、横で水遊びしているような雰囲気でしたね。でも、彼の練習の邪魔にだけはならないよう、気をつけてました。それで、後輩にがんばってもらって、部活の予算を獲得しようと応援してましたね(笑)

– 彼は優しい先輩に恵まれましたね(笑)

渋谷を拠点にすると、フットワークが軽くなる

二宮 英人 弁護士

– そうして、小学校の頃の初志を貫徹して、弁護士になられたわけですね。

ただ、大学の法学部に入ったころには、検察官になろうと考えていました。

– それはなぜですか。

当時の考えですが、弁護人は裁判全体の主導権を取れる立場ではなく、裁判官にもなかなか主張が認められず、自分のやったことの結果が出ない可能性が高いと思っていたからです。

その点、検察官は起訴や不起訴を決められる権限があるので、イニシアチブを取れる検察官になろうと考えたんです。

– 当時から民事裁判にはあまり興味が湧かなかったですか。

民事では、どうしても書面のやりとりが中心になってしまいますので、自分の強みを活かせる「ディベート」らしさという意味では、常に刑事裁判のことを意識していました。

もちろん、民事裁判も当事者にとっては重要ですが、刑事裁判では、その人の人生がかかっています。

中央大学のロースクールに入ったのも、検察官の輩出が多いという点から決めたんです。それで司法試験に合格して、修習でも検察官になるつもりで勉強し,途中までは順調にいっていました。

ところが、修習の途中で教官が替わり、私がその人の好みに合わなかったのか,いきなり検察官の内定は出さないということになってしまったんです。

– 検察官の道は、そんなにあっさり断たれるものなんですね。

そこから慌てて、本格的に法律事務所の就職活動をしました。それで、幸運なことに、刑事事件専門の事務所に採用されたんです。

その事務所は、ほぼ100%で刑事事件を扱っていたんですが、少年事件をあまり扱っていなかったので、私が名乗り出て、少年事件を専門でやるようになったんです。学習塾でアルバイトをしていたこともあるので、中学生や高校生と話すことには抵抗なかったですし、彼らから話を聞き出すのも得意なほうだと、当時から思っていました。

– そうして独立なさって、この場所に事務所を開業したというのは、何か理由があるんですか。渋谷は若者の街だという、漠然としたイメージもありますが。

一番の理由は、交通の便がいいことですね。少年鑑別所は、練馬区の氷川台にあり、渋谷からは電車1本で行けます。小菅の東京拘置所へも、半蔵門線から東武線への直通があるので、1本で行けますし、霞が関の裁判所へは、銀座線から乗り換えはありますが、赤坂見附駅のホームで、すぐに丸ノ内線に乗れますよね。

– ああ、確かにそうですね。

埼玉や横浜の裁判所にも電車1本で行けますので、法律家としては便利な場所だと思います。

– そうして、フットワークの軽さも実現できますね。

そうですね。刑事事件では、いろんな場所へ行かなければなりませんので、交通の便がいい場所に事務所を構えることで、フットワークの軽さも実現できます。

刑事専門弁護士とのホットライン

二宮 英人 弁護士

– 一般論ですが、弁護士が刑事事件だけでやっていくのは、収入面で非常に厳しくなるという話をよく聞きます。二宮先生はどうお考えですか。

刑事弁護人としてのスキルをしっかりと磨いて、経験を積んでいれば、ある程度収入に余裕がある方からは、それなりの報酬を支払っていただけると思っています。

特に少年事件に積極的に取り組んでいる法律事務所は少ないので、結果を出している弁護士には、わが子のためにお金を出していいと考える親御さんはいらっしゃいます。

– この渋谷青山刑事法律事務所を独立開業するときに、何か苦労なさったことはありますか。

そうですね。民事事件と違って、刑事事件では、誰かから紹介されるということは、ほぼありません。

刑事事件というのは、基本的に他人には言いたくない話なんですよ。ですから、たとえ私のことを弁護士として高く評価してくださる方がいても、その人に刑事事件が起きている事実が伝わりませんし、「あの先生、いいよ」と勧めてくれることもないわけです。

ですから、電話で相談が来ない限りは、仕事が無いという状態です。

– 大変ですよね。どうするんですか、そういう場合。

インターネットですね。いざというときに、ネット検索などでわれわれのことを見つけていただくことが重要となります。

– それが命綱ですよね。

そうですね。「刑事専門」を掲げた場合、そういった独立のリスクはあります。最初の2カ月ぐらいは、仕事がゼロでした。
そこから、インターネット経由で見つけてくださった方からの依頼が、徐々に増えてきました。

– 現在、こちらの事務所には、二宮先生を含めて3名の弁護士がいらっしゃいますが、これから新人を採用していくとして、その際に重視したいことはありますか。

やはり、考えている方向性が同じであることだと思います。
刑事事件の場合、たとえば被疑者や被告人が嘘を付いている場合に、それをそのまま主張する弁護人や、嘘を言わないように説得をする弁護人、あるいは信頼を損ねたとして弁護人を辞任する人、いろいろなスタンスがありうるのです。

大きな事件であれば、チームを組んでやっていくでしょうし、その場合に弁護人のスタンスがバラバラであれば、結局は依頼者のためにならないんです。

– たとえば、本当はやったんだけれども「無罪を主張してくれ」と頼まれた場合、二宮先生は、どういうスタンスを採るんですか。

私は「それはできない」と答えます。説得をしても本人の意思が変わらない場合は、「その主張で引き受けてくださる弁護士は他にいるから」ということで、断るでしょうね。


この社会に生きていれば、警察官の職務熱心のあまりに、身に覚えのない逮捕など、不本意な強制捜査を受ける危険性も少なからずありうる。そんな緊急事態にも、すぐに駆けつけてくれて、筋道を立てて歯切れよく話す弁護士がいれば、そのたたずまいに被疑者は頼りがいや安心感をおぼえるだろう。

かつては検事を目指していたという二宮先生は現在、検事に対峙する刑事弁護人として活躍する。いずれにせよ、刑事裁判や討論に賭ける情熱は変わらないに違いない。

弁護士法人渋谷青山刑事法律事務所

二宮 英人 弁護士
弁護士法人渋谷青山刑事法律事務所

東京弁護士会
私立ラ・サール高等学校 卒業
東京大学法学部私法学科 卒業
中央大学法科大学院 修了

二宮 英人 弁護士の詳細はこちら