介護・福祉問題に特化する、高齢化社会に優しい法律家 / 外岡 潤 弁護士

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東新宿のマンションの一室を拠点として、介護福祉ジャンルの法律問題を中心に弁護士活動を行っていらっしゃる、外岡 潤 先生(法律事務所おかげさま)にお話を伺った。

ただ、事務所に立ち寄ることはあまりないとのことで、この日は外岡先生の出張先である杉並区内の老人福祉施設や、その最寄り駅前のパン屋がインタビュー取材場所となった。

かつては引っ込み思案だった

– 老人ホームなどで、手品や日本舞踊のパフォーマンスをなさるそうですが、どこで身につけたものですか。

大学時代に、奇術愛好会という半世紀以上の歴史があるサークルに入っていまして、そこで日本古来の手品を修得しているうちに、他の様々な日本文化に興味が出てきたんですね。卒業後は日舞を始めて、今は日舞とお茶とお花をやっています。

– 子どもの頃から、みんなの前で何かをやるのが好きだったんですか。

いえ、むしろ引っ込み思案で、読書が好きでしたね。みんなで集まるよりは、わりと、ひとりでコツコツ取り組むのが好きでした。

– では、大学のころに、価値観が大きく変わったのではありませんか。

そうですね。多くの人々の前でコミュニケーションを取ることの、面白さを発見する機会ではありました。

– 殻を破ってみたら、意外と居心地がよかったということもありそうですね。弁護士を目指そうと思われたきっかけは、何だったのですか。

最初は本当に消極的なきっかけだったんですよね。どうしても就職活動をできる気がせず、躊躇しているうちに出遅れてしまいました。それで、就職活動をしない言い訳のようにして、司法試験の勉強を始めたんです。

– 実際に弁護士として業務を行われて、この資格に対する印象はいかがですか。

弁護士って、すごく矛盾している資格業だと思っていまして、士業の中では格上みたいに言われつつも、仕事が流れてくるフローとしては最も下流に位置していると思うんです。

– なるほど、トラブルが深刻化したときに仕事が回ってくる感覚はあるかもしれませんね。普段は他の士業へ先に相談が入りそうです。

予防法務は、税理士や司法書士、行政書士など、他の士業の方々が多くの範囲をカバーしていて、弁護士は「何かあったら来てください」という受け身の立場ですので、顧客からの受注に関しては掌握しきれないポジションなんですよ。

そこは、弁護士という職業の限界なのかもしれませんし、「食えない弁護士」が出てくる原因の一端は、そのあたりにあるのだろうと思います。

なので、弁護士もコンサルタントとしての性格を強める必要性を感じています。

開業直後は、アルバイト収入で切り抜けた

外岡 潤 弁護士

– 弁護士として、介護福祉のジャンルに絞り込んだ理由は、どんな点にあるのですか。

初めは弁護士として、社会のどういうニーズに自分が応えられるか、わからなかったんです。

最初に就職したのが企業法務系の事務所でして、どうしても自分に合わないと感じていました。独占禁止法や知的財産法なども、一生のテーマにしたいほどの興味を持てなかったんです。

そんなときに『ヘルプマン!』という介護漫画に出会いまして、面白い、これは自分のテーマにできるかもしれないと感じたのが、福祉や介護の問題に関心を抱いた最初のきっかけでした。

– どんなところに面白さを感じたのでしょうか。

認知症の人と、現場のスタッフが、うまくコミュニケーションを取ったり、理解し合ったりしていて、認知症の人と対峙してのコミュニケーションって、非常に高度だなと感じたんです。

– 実際に現場に入られてみていかがでしたか。

実際に現場を覗いてみると、職員の皆さんは本当にコミュニケーションの達人なんですよ。
例えば高齢の方がデイサービスに行きたがらないとき、どんな言葉をかけるか。単に「行けば楽しいですよ」といった誘い文句では心に響かない。そういうときは「○○さんに来て頂かないと盛り上がらないんです。助けてください」と、お願いするというんですね。
その人の存在を認め、尊重し、社会的役割を担って頂く。そういった思いが根底にある
からこそ出てくる言葉だと思うし、だからこそ相手にも伝わるのだなと思いました。

– 企業法務系の事務所を辞めて、最初に独立開業したときに、大変だったのではありませんか。

本当に小さな事務所を借りて、ひとりで始めたもので、最初は全然仕事がありませんでした。それで、債務整理が盛んな他の法律事務所でアルバイトをしていましたね。

– 企業法務系の事務所を辞めて、最初に独立開業したときに、大変だったのではありませんか。

本当に小さな事務所を借りて、ひとりで始めたもので、最初は全然仕事がありませんでした。それで、債務整理が盛んな他の法律事務所でアルバイトをしていましたね。

– 弁護士資格を持っている方がバイトですか。そういうこともあるんですね。

あれは本当に助かりました。多いときには週4日ぐらい入っていました。

– 2009年の4月に独立なさって、8月にホームヘルパー2級を取得されたのも、あまり仕事がなかった頃なんですね。

そうなんですよ。バイトをしながら取得しました。やはり介護の現場を知らなければならないと思ったんです。

とにかく手探りでした。今も手探りな部分はありますけれども。

今はホームページのリニューアルを進めていまして、法人である介護施設側と、個人の施設利用者やそのご家族側、2つの窓口を作って、双方の立場から相談をしていただきやすい態勢を整えています。

– 資格を取得されて、それがどのように活かされていますか。

現場の仕事の流れを知っているということは、記録を分析するとき特に役立っています。
経験が無ければただの数字や文字の羅列ですが、具体的にその時の様子がイメージできるとより深く理解できると感じますね。

介護の裁判は、判断がバラバラ

外岡 潤 弁護士

– 介護や福祉の法務に取り組むのはわかるのですが、そこに特化して絞り込もうという方向性としたのは、どんな思いがあったのでしょうか。

以前は介護を取っかかりにして、相続などの法律相談も受けていたのですが、方向性を絞り込んだのは、つい最近のことです。今は介護現場のトラブルに関する案件で、ほぼ100%を占めています。

– 今まで担当なさった案件の中で、強く印象に残っているものはありますか。

ある認知症の女性高齢者が、グループホームという認知症の方専門の施設に入居していたところ、家族に知られないまま両腰部分に褥瘡が発生し悪化していたことが判明したという事件がありました。
その方の娘さんはほぼ毎日施設に様子を見に通っていたのですが、いつも服を着て車椅子に座っていたので、まさか皮膚がそのような状態になっているとは夢にも思わなかったといいます。ホームから別法人の特別養護老人ホームに移った初日に服を脱がせてみて判明したのですが、そのホームは褥瘡のことを家族にも、移転先施設にも知らせず、丸投げしたのです。
そこでホーム側を相手取り、褥瘡発生の責任を追及する裁判を提起することになったのですが、一審だけで2年ほどかかりました。褥瘡は長期にわたる事象なので、転倒や誤嚥と異なり記録も膨大となり、難しいのです。最終的には勝訴し、終結しました。

– 逆に、介護施設側の案件でも、印象に残っている案件はあるのですか。

顧問先からは日々さまざまな相談が寄せられていますね。最近は、「施設入居者の長男が、女性職員に声を掛けナンパをして困っている」というものがありました。家族からすれば気安い思いなのでしょうけど、女性が多い職場なので恐怖を感じるものなのです。ストーカー規制法に則り警察に通報する、顧問弁護士から警告文を送付する等の対策を講じました。
裁判でいえば、現在進行中の事例ですが、4階建ての建物に入居していたおばあさんが、ベランダから飛び降り自殺を図ったという事例がありました。それで、施設の安全対策が足りなかったのではないかと、遺族から訴えられたのです。

この裁判には損害保険会社も裁判に補助参加しています。保険会社としても、入居者の自殺によって施設の責任を問われてしまうと、全国の介護施設にも波及し、経営上も大きな影響が生じうるからです。

この飛び降りた方は生前、家族との関係がうまくいっていなくて、「死にたい」と周囲にこぼしていたようなのです。

– そうなんですか。そうなると、施設の責任を問うのは酷かもしれません。仮にそのとき、スタッフが自殺を止められたとしても、自殺の動機が無くなっていない限りは、また繰り返すかもしれず、根本的な解決にならないですよね。

そうなんです。ほかにも、施設内で利用者が転倒したり、あるいは施設外へ出て徘徊したり、その過程で負傷したり亡くなったりする事故があるんですね。

これからは、身体が動く元気な認知症の方が増えていくと考えられるので、こうした事故も増加していくとみられます。施設側の法的な責任がどこまで問われるのかは、大きな課題に発展しつつあり、法制度の中でも未整備な部分が多く残ってます。

– 「これからは超高齢化社会になるんだ」と、世間ではさんざん言われているわけですから、未整備のままでいいはずがありませんよね。どうして未整備のまま放置されているのでしょう。

介護に関する裁判でいえば、裁判所ごとに判断の基準が本当にバラバラでして、一定の方向性がないんです。しかも、慰謝料の額もどんぶり勘定ですので、やはり基準が定まっていないのです。

被害者や遺族の方も、怒りにまかせて何百万、何千万と請求しているだけで「謝ってくれれば減らしてもいい」と考えている場合もあります。

アメリカは「訴訟国家」というイメージが先行しがちですが、むしろ、司法はむやみに賠償を認めず、合理的な判断をくだしているように思います。

裁判所の弱点を補う、オリジナルの紛争解決の場をつくりたい

外岡 潤 弁護士

– 後輩弁護士の指導などは、行っていらっしゃいますか。

現在は本当にひとりで取り組んでいますが、これからは、自分と同じような考えを持って、介護福祉の法律問題に取り組む弁護士を増やしていきたいと考えています。

また、介護に関する「メディエーション」(裁判外紛争処理・ADR)の講座を2カ月に1回、銀座で実施しています。「一般社団法人介護トラブル調整センター(てるかいご)」という機関をつくり、介護トラブルの話し合いによる解決を実践しています。

– どのような特色があるのでしょうか。

介護の法律トラブルは、どうしても感情的な対立に発展しやすいという性質があります。当事者がお互いに疑心暗鬼になってしまい、譲り合おうとしないのです。そこで、中立公正な立場にある第三者がお互いの話を聞いて、不満や対立点などを具体的に洗い出し、解決策を探るという場をつくっていきたいという希望があります。

– 介護トラブルの根っこを断つというこどですね。

そのとおりです。裁判所では、法律の枠組みの中でしかトラブルを論じないので、結局その事故の瞬間しかフォーカスされず、不毛な処理になってしまう場合があるんですね。

– そうですね。感情的な対立が根深ければ、裁判でお金だけをもらっても仕方ない場合もありえますし。

だから、まずは話し合いましょうと。

– 弁護士として、大事にしていらっしゃることは、何かありますか。

当たり前のことかもしれませんが、相談を受けたときはリサーチをして、必ず裏を取ることを心がけています。自分の見解や見立てでなく、必ずエビデンスに基づいて事に臨むようにしています。

– 思い込みや先入観を排除して、一件一件に向き合っていくということでしょうか。

ええ、そういうことです。近ごろだと、JASRAC(日本音楽著作権協会)の著作権料問題がありますが、介護施設のレクリエーションでも音楽を使う場合があるんです。

– 確かにそうですよね。お年寄りは思い出の音楽が共通していて、音楽で盛り上がりやすいでしょうね。

ただ、介護施設はボランティアではなく、介護保険に基づいて営利目的で運営されていますから、著作権料を支払わなければならないのではないか、そういう問題が浮上しうるわけです。

– 現状は、どうなっているんですか。

先日、JASRACに問い合わせましたところ、「今のところは免除しています」という回答でした。まさに、そのあたりは先方のサジ加減といいますか、グレーなんですけれども、現時点では支払う義務がない運用になっているようです。

– 難しい問題ですね。それにしても、福祉の現場を通じて、著作権問題も扱うことになるわけですね。

介護や福祉をターゲットにしていると、それだけで様々な法律問題が派生しえます。ですから、毎回勉強だと思っています。


人前でパフォーマンスを披露するなど、一見すると華やかな印象が先行しがちだが、お話を直接伺うと、ひたむきで実直な人柄を感じることができた。

裁判に頼らずに、介護施設のトラブル解決を実現する機関を創設するという、大きな夢をお持ちでもある。外岡先生のような弁護士がこれから増えていけば、安心して歳をとれるというものだ。

法律事務所おかげさま

外岡 潤 弁護士
法律事務所おかげさま

東京大学法学部卒業
2009年 法律事務所おかげさま開設
2012年 一般社団法人介護トラブル調整センター(てるかいご)を設立。理事長就任

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