「法律事務所は入りづらい」という壁を作っているのは、依頼者自身です。 / 久保利 英明 弁護士


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「ブルジョア弁護士」「尋常でない日焼け」「人気弁護士ランキングの常連」「目立つスーツに派手なネクタイ」など、この方を形容する言葉はさまざま飛び交っている。だが、その生き方やポリシーまで、はたして私たちはどれほど知っているだろうか。

このページでは、日比谷パーク法律事務所代表 久保利 英明 弁護士の、ただ単にお金儲けが上手な弁護士とは一線を画した「信条」や「哲学」をも垣間見られる、1万字インタビュー記事をお送りする。

年間330日は働き続ける

– 久保利先生は、これほど他の追随を許さないほどのキャリアを重ねていらっしゃいますし、もうこれ以上お客さんを増やそうとか、そういったお考えはないでしょうか。

いや、増やす増やさないの話じゃなくて、来ちゃうんですよ(笑)

お金になろうとなるまいと、困ってらっしゃる方の話を聞いて、これは可哀想だなとか、やる価値があるな、と思ったらやりますし、専門分野が違っていたり、もっと若い人のほうがいいんじゃないかと思えば、他の弁護士を紹介します。

何の前触れもなく、勝手に来ちゃう人もいるんですよね(笑)

– どういうことですか(笑)

キャリーバッグを引きずりながら、山のような記録を持ってきて「先生、最高裁で負けちゃったんですけど、どうしたらいいですか」って聞いてくるもんだから、最高裁で負けたら、さすがにね…… すみませんと、お断りするんだけど、なおも「再審はできませんか」って尋ねてくるから、困ったなと。それでも「話だけなら聞きますよ」と引き受ける若い弁護士も紹介したりしますよ。

– そんな久保利先生は、今でも年間で30日ぐらいしか休みを取らないとのことですが、本当ですか。

そうですね。夏に3週間、冬に2週間だけまとめて休んで、あとは、土日祝日関係なく仕事をしています。

– だとすると、今年に入ってから毎日、仕事をしていらっしゃるわけですね。

ええ、昨年の年末には、レソトとスワジランドで10日間、過ごしていました。レソトは、アフリカのスイスといわれているところで、スワジランドは草原の国ですね。どちらも王国で、昔ながらの酋長みたいな人が王様をやっています。

これで、169カ国目ですね。

– 169カ国!

国連加盟国が193カ国あります。その中にはアフガニスタンみたいな戦乱の地や、中央アフリカなども誘拐が多くて、簡単にはいけない国もあります。なので、リスクマネジメントのプロとしては慎重に選ばなければなりません。

また、日本が国交を結んでいるけれども、国連に加盟していない国が4つあるんです。太平洋の真ん中の小さな島国とかね。なので、193プラス4で、197カ国すべて踏破するのが目標です。これは行かなきゃならない。プライベートの目標ですね。

– もう、30カ国を切っていますね。凄いですね。今までで、一番印象に残っている国はありますか。

いえ、それぞれにいい国ですね。もう一度行きたい国はどこかと聞かれたりしますが、どこでもいいなと思います。

そんなことよりは、まだ残っている28カ国を何とかしなきゃと(笑) そっちのほうが大事ですね。

今の楽しみは、行った国の数を増やしていくことと、本の執筆ですね。「エイジ・ライター」といいますけれども、自分の年齢以上の本を書いて出すということで、もう73冊出しています。まだ72歳ですけれどもね。

弁護士に必須の能力を、司法試験で測れるか

– 後進の育成も積極的に行っていらっしゃいますね。

第二東京弁護士会の会長の頃、大宮の法科大学院を作りましたし、今は桐蔭横浜大学法科大学院と統合して、そこの教授を務めています。そこで、若い法律家を創り上げたいと頑張っています。

桐蔭で、ぼくが持っている授業は、桐蔭の学生以外でも、修習生でも弁護士でも入れる公開授業です。ゲストスピーカーも来られます。企業の法務部員も来られますしね。夜の8時40分から10時10分まで、その後に皆で食事をしたりします。

– その時間から食事会なんですね。

近くのバールで、夜の12時ぐらいまで食べて飲んでいます。日本のロースクールで全然ダメなのは、教授と学生がそういうふうに気軽に集まって、話をしたり議論をしたりする機会がないことです。ただ、法学部でやっていることの繰り返しみたいになっています。

現場で生き生きと活躍している弁護士から、経験談を聞いて学ぶチャンスが、ほとんどないんですよね。学者というよりは、弁護士が弁護士を創る場がロースクールであると、私は考えているからです。

– 弁護士が弁護士を創る。そのほうが自然ですし、ワクワクしますね。

確かに、司法試験に合格するだけなら、予備校に通ったほうが効率がいいのかもしれません。ただ、あの試験に受かったからといって、いい弁護士になれる保証はどこにもないんですよ。

– 久保利先生も、最近になって現在の司法試験の問題を解いて、合格ラインに届かなかったというエピソードがあるそうですが。

そうなんですよ(笑) 「LAW未来の会」が主催して、去年が民法で、おととしが憲法ですね。憲法は伊藤塾の塾長(司法試験予備校創設者の伊藤真弁護士)に採点してもらい、民法は獨協大学の花本広志先生にお願いしました。

どんな試験をやっているのか知らなければ、教えられないと思って解いたんですが、こんな試験で弁護士としての優劣を測れるわけないな、というのが率直な感想です。

そもそも、法律の実務家をペーパーテストで選抜するという制度そのものに疑問がありますね。ロースクールでしっかり学んだかどうかが重要なんです。

– あくまで、ロースクールが中核であるということですね。

そこでしっかり学んでいて、それなりの能力があるとわかれば、その後に課される司法試験の負担は軽くていいんです。

– 司法試験は8~9割の合格率であるべきと、以前からおっしゃっていますね。

そうです。ペーパーテストで落とそうという魂胆がよくないんです。弁護士に最も必要なのはコミュニケーション能力であって、それを最も測定できないのがペーパーテストだと思うんです。

人間と人間が会って、目を見て、話を聞いて、「この人は、本当は何を求めているんだろう」「何に困っているんだろう」「自分は何をすれば、役に立てるかな」と、そういうものを感じる力が大事なんですね。

– 言葉だけ聞いていても、わからないものを感じる力ですね。

そういうヒアリング能力と、メッセージを伝える能力の組み合わせが、コミュニケーション能力ですね。