「まるで魔法使いのよう」といわれた、職人かたぎの労働弁護士 / 佐久間 大輔 弁護士


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東京メトロ銀座線 末広町駅や、東京メトロ千代田線 湯島駅、JR御徒町駅から近い場所に事務所を構える佐久間 大輔先生(つまこい法律事務所代表)にお話を伺った。

過労死された方の遺族に寄り添い、長年にわたって労働者側の立場を代理する弁護士として信頼を得てきた。さらに、企業側が訴えられるリスクを未然に防ぎ、労使双方に利益となるような健康な働き方や、労働環境整備のコンサルティングも行っているという。

労働問題は、「何が起きたか」の把握が最重要

– 佐久間先生は、いつ頃から弁護士を目指そうと思われたのですか。

決断したのは、高校3年生です。将来の目標を探していた頃ですが、新聞記事の写真で、弁護士が裁判所の前で「勝訴」の垂れ幕を掲げている様子を見かけました。それに憧れたのがきっかけですね。「困っている人を助けたい」という少年の純粋な想いがあったのだと思います。

– なるほど、テレビにも出られますもんね。

数ある分野で労働、特に過労死の問題に取り組もうと考えたのは、司法修習生時代に『過労死!』(過労死弁護団全国連絡会議編)という本を読みまして、過労死は労働問題の中でも、生命を奪われたり高度障害になったりして、最も悲惨な案件だと改めて感じたからです。

– そうですね。ある意味で究極的な労働事件かもしれません。

この過労死という悲惨な出来事を少しでも減らしていくことをテーマに、弁護士として仕事をしていきたいと思い、労働問題を多く扱う法律事務所に入所して経験を積み、2013年に独立開業しました。弁護士登録して以来20年、労災や過労死事件に取り組んでいます。

労働事件は、事実関係をどれだけ丹念に調べ上げられるかで決まると思っています。

特に過労死の事件は、本人から事実関係の話を聞き取ることはできませんので、労働の実態解明は、より難しくなります。さらに医学的な知識が求められるところも、他の労働事件とは異なる特殊な点だと思います。

弁護士としては難しい分野ですが、過労死事件の解決で身につけたスキルは、他の一般民事事件にも応用して活かせると考えています。

遺族は「夫の仕事を深く理解してくれた」と思った

佐久間 大輔 弁護士

– 労災事件を扱っていて、何か思い出に残っている事件などはありますか。

ある機械の組立工程技術者として会社に勤務していた40代の男性が、地方から東京に出張中、くも膜下出血を発症して亡くなったという労災事件は忘れられません。

– 過労死は、仕事と死亡との間に因果関係が必要となるんでしょうか。

従業員が仕事中に亡くなったというだけでは労災は認められません。労災の認定にあたっては、発症や死亡に「業務起因性」があったかどうか、という表現をします。
男性の時間外労働時間は、月23~49時間で、それほど長期間の残業がなく、夏季休暇を取っていたこともあって、一審では、くも膜下出血の業務起因性が認定されず、労災も認められませんでした。敗訴した遺族のご依頼を受けて、私は二審の東京高裁から担当しました。

男性は残業が多くはなかったものの、亡くなる直前の約1年間にわたって海外出張を繰り返していました。
私はその点に着目して、手帳や資料を丹念に読み込んで、海外出張の実態を解明していきました。

– どういう実態があったんですか。

男性はリワーク業務といって、製品の不具合やクレーム、生産トラブルが発生したら、現地へ足を運んで、原因究明などを行う仕事をしていました。

亡くなる直前の約11カ月間には、海外出張を9回繰り返し、海外滞在日数は183日にもなっていて、日本に居ないことのほうが多い状況でした。出張と出張との間の期間も短くなり、十分な休息を取る時間もなく、精神的余裕がない状態だったんです。

– しかも突然の出張ですから、せっかく立てたスケジュールが変更になるでしょうし、自分のペースをまったく確保できませんよね。

突発的な海外出張をして不具合の対応やクレーム処理をすること自体が精神的ストレスとなったでしょうし、海外出張中は疲労が相当に蓄積されていたと思います。

夏季休暇後すぐに、男性はフィリピンとインドネシアへ計1カ月間の長期出張を命じられ、帰国後にはその蓄積した疲れも癒えないまま、東京出張となり、奥さんやお子さんに看とられることなく亡くなりました。

– なるほど、労働時間の数字だけを見たら「大したことない」と思ってしまいそうですが、決して数字に表れることのない、想像を絶する苦しみや疲労感が本人にあったのかもしれません。海外出張先も一定ではなくて、環境がコロコロ変わるわけですから、そのつど適応するのもストレスが溜まりそうです。

そのことが裁判所に理解してもらえて高裁で逆転勝訴となりました。高裁判決は、量的には過重労働でなくても、海外出張を反復していた状況によって質的な過重性を認定し、重大な疲労蓄積が起こりうることを認めた点に意義があります。

– 遺族が解明できなかった真相を、佐久間先生は明らかにしたわけですね。

私は私にできることをしただけです。ただ、遺族の方々に喜んでいただけて、よかったです。

過労死の遺族は、とにかく「なぜ家族が死亡してしまったのかを知りたい」と願っています。多くの場合は一家の大黒柱である夫・父が亡くなっているので、もちろん経済的な補償も重要なのですが、それ以上に「何があったのかを知りたい」という思いも強いのです。

– 父親のやっている仕事の内容って、子どもにとっては本当にわかりませんね。奥さんも同様かもしれませんが。

私が証拠を集めて、調べ尽くして、ご主人が会社から強いられていた海外出張の実態を具体的に明らかにすると、奥さんは「まるで佐久間先生が魔法使いのように思えた」とおっしゃいました。

– 魔法使いですか。その褒め言葉には、感謝だけでなく驚きも含まれていますよね。

当然のことをやった結果ですが、そのような評価は有り難いと思います。